【経営】いま中小企業に起きている課題

不況が原因で、業績が向上しない?

「景気は、持ち直しに向けた動きがみられ、足踏み状態を脱しつつある。」-これは平成23年2月、すなわち最新の政府の月例経済報告の冒頭の一文である。中小企業の経営者で、この言葉通りの実感を持っている人はどの位いるだろうか。不況からの脱出は明らかに大企業から始まっている。では、しばらくすれば中小企業にもその大企業の富の恩恵が巡ってくるのか。問題はそう簡単ではないようだ。  

不況が去っても、業績が向上するような要素はあまり見当たらない。それはどういうことか。アイ・モバイルのスタッフは、毎日のように大都市や地方を訪れ、さまざまな中小企業の経営者と過去10年以上接してきた。とくに古い業界である製造業や建設業、中小の卸・小売業などで見られる傾向であるが、中小企業は時代の変化の中で、大企業というライバルや、顧客の志向性の多様化という現象に対応出来ず、元気を失ってきているようである。  

本稿では、中小企業に共通して起きていると思われる事象を解き明かすことにより、中小企業復活の一つの可能性について提言を行いたいと考えている。 さて、そもそも中小企業に何故元気がなくなってしまったのか。ここでは大きく4つの理由を挙げたい。(図1)

1.巨大資本を擁する大企業の台頭

大企業はその巨大資本とスケールメリットを武器に生産や物流を効率化し、また大規模化を図ってきた。TV、新聞、雑誌などマスメディアを活用したマスマーケティングを行い、また生産の集約・コスト削減により商品・サービスの低価格化/規格化を進めた。結果、資本力で対抗できない中小企業の一部はそうした大企業の下請け・系列化の圧力に押され、大企業のシステムの中に組み込まれた。

2.顧客の消費・利用パターンの変化

産業・交通手段の発達・生活水準の向上とともに、顧客の商品・サービスの購入パターンは変わり、かつて有利だった立地は無意味化し、また顧客が商品・サービスに対して望む内容も大きく変化した。大資本が顧客の嗜好変化にITを活用して対応していく一方、顧客数が比較的少ない中小企業はその対応コストの高さゆえに対応が後手に回った。

 3.将来性の減少と将来不安の増大

上記1と2は不況とは関係なく引き起こされたものであり、過去数十年という長い歴史の中で、中小企業にとって構造的な課題となってきた課題である。そうした状況が進行するにつれ、特に金融機関による中小企業への将来性の評価は厳しくなり、新規に資金調達を行うことが難しくなった。また、将来への不安から事業を後継させることが困難になり、後継者問題が増加した。

4.自信と継続意義の喪失

こうして、かつては顧客の大多数を獲得していた中小企業であったが、顧客の多くを大企業に取られるようになり、事業継続の自信を失うとともに、自らの存在意義にも疑問を呈するようになった。  

以上の4つを見比べてみると、これらには因果関係があることが分かる。すなわち、3と4は、そもそも1と2が発生したことによって生じている問題である。この意味では、1と2こそが、中小企業が復活シナリオを描けない根本的・本質的な問題であることになる。つまり、1と2への本格的な対処なくして、中小企業の復活はありえないと考えられるのだ。  

それでは、この2つの本質的な問題に対して、我々はどのように対応していけば良いのだろうか。2つの課題それぞれに対する対応策を検討してみよう。

施策1: スケールメリットへの対抗手段

スケールメリットを発揮できる巨大資本に対抗するには、2つの可能性がありそうである(図2)。

1つは、(A)中小企業同士が連携して巨大資本に対抗する体制を作ること。例えば同じ業種同士で仕入れに共同購買を導入したり、広告宣伝等を共同で行うことが考えられる。

もう1つは、(B)大資本では実現不可能な中小企業の得意領域を広げていくこと。例えば、地域の顧客に特化して手厚いサービスを行う、顧客の要望に可能な限り対応した商品を生産する(受注生産に近い)などが考えられる。  

前者の場合、企業間の連携が非常に重要となる。互いに協力し合える仲間を探していくことや、仲間となった者同士が常に密接なコミュニケーションを行えることが大切になる。  

後者の場合、企業と顧客との密接なコミュニケーションこそが重要である。対面でのコミュニケーションに加えて、常に顧客からの声をひろい、かつ一人ひとりの顧客に対して発信し続けられる仕組みを考えていく必要がある。  

この意味では、比較的低コストでコミュニケーションを実現できるITの役割は不可欠と言えよう。

施策2: 多様化するマーケットへの対応

次に顧客の消費・利用パターンの変化に対しては、3つの可能性が考えられる(図3)。

1つ目は、(C)立地に依存しない集客施策を確立すること。例えば小売業であれば通販、サービス業であれば出張サービスの可能性等を検討することなどが挙げられる。この際には、顧客と企業との間に、立地対面以外でのコミュニケーションを行えるための方法を考える必要がある。  

2つ目は、(D)多様化したマーケットにおいても強烈に惹きつけることの出来るような価値を提供すること。例えば、最近話題となっている共同購入クーポンのようにキャンペーンとして大幅な割引を行うような仕掛けが考えられる。  

3つ目は、(E)多様化していない顧客に、自らの顧客対象をシフトすることである。例えば、中国やベトナムのような新興国に自社製品を輸出したり、国内においても顧客の志向が安定しているニッチ層など新しい層への開拓を検討していくことが考えられる。  

このようにマーケットが多様化している現状においては、販売先の再検討であれ広告戦術の検討であれ、自社の強み・弱みや外部環境(ライバル、市場の状況など)を分析し、何をするのが適切であるかを戦略的に検討していく必要がある。そのうえで、ツール(手段・戦術)として何を採用するのかを決定していくことになる。

目的と方法論を明確化しよう

マーケティングとは、既に述べたような現状分析・戦略作り・施策決定という検討作業を行い、また施策を実施する一連の行為をいう。特に近年ではマーケティングの中でITが果たす役割は飛躍的に増大しているため、ITやマーケティング活動を有効に活用することで、業績は大きく変動する可能性もある。そして、その際には、自社に関する分析の結果、顧客ターゲットを想定し、目的を明確にした上で具体的な方法論を決定していくことが望ましい。また、ITマーケティングツールも、そのような明確な目的と方法論のもとで、はじめて効力を発揮する場合も少なくない。今後は、中小企業にとって役に立つ各種のツールや、サービスの情報をご紹介していきたい。

さいごに

本コラム初回の本稿では、マクロ的な視点において中小企業の置かれている状況を俯瞰し、それらに対してどのようにITとマーケティングが有効であるかを論じた。次回以降では、もっと具体的に、ではどのように戦略立てを考えていけば良いのか、またどのようなITツールやマーケティングツールが有効か、また、比較的新しいマーケティングに関するトピック等、なるべく各位に実践的に役立つ情報を盛り込んでいきたい。

古屋 亮太(ふるや りょうた)
アイ・モバイル株式会社 社長室 

早稲田大学卒業。ピッツバーグ大学公共政策・国際関係大学院修士。外務省系の財団に勤務後、ネットマーケティング企業(現:楽天リサーチ)の立ち上げに参画。以降、日本ユニシスなど複数の企業において経営戦略・新規事業開発などに従事、多くの戦略策定やネットマーケティングツールの開発を行う。

last update:3月8日

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