実践編 最終回 今こそITをフル活用しよう

2011年3月11日に起こった東日本大震災は、CNN等の海外メディアでも、連日ニュースとして取り上げられており、世界中の関心が高い。被災された方、避難所で不自由な生活をされている方には、心よりお見舞いを申し上げたい。弊社としても、収益金の一部を寄付し、ホームページサービスを被災地の企業に無料提供するなど、復興に向けて少しでもお手伝いできればと願っている。  

私は、1995年の阪神大震災の際も日本にいて、被害の大きかった神戸市東灘区の自宅で地震にあった。二つの震災を経験した数少ない外国人かと思う。当時は、P&Gの社員だったので、避難所にパンパースなどを配って歩いたものだ。  

今回の震災は、阪神大震災を上回る被害となるようで、経済への影響も計り知れない。先日、創立60年以上の自動車運送会社のオーナーと話したが、会社存続の危機に直面しているとのことだ。また、ある店舗経営者は、銀行への返済をストップできるよう交渉し、家賃の支払いも待ってもらって、なんとか生き残る道を模索していると言っていた。大変な状況だ。  

10回にわたり連載させていただいたこのマーケティング講座も最終回ということで、中小企業に必要なマーケティングについて総論を述べる予定であった。図らずも震災により、企業にとって何が重要なのか、明確になってきた。 いろいろな考えがあるだろうが、現時点で私が優先課題だと思う企業活動は、

1安全の確認
2業務維持
3売上獲得

である。

 効率的に安全を確認する

災害時に備え、家族や社員の安否を確認するための最も効率的な通信手段を検証しておく…などの安全対策は、企業経営者がいますぐ取り組むべきことだろう。 今回の震災では、情報手段として、インターネットが大きな力を持つことがはっきりした。阪神大震災の時も、電話がつながらず、インターネットが新しい媒体として認識されたが、当時はホームページの情報程度で、普及率も低かった。今ははるかに進化して、スカイプなどのインターネットを使ったビデオ通信、FacebookやツイッターなどのSNSで広範囲な情報伝達が行われている。利用者も格段に増えた。

私も地震の後、電話がつながらなかったので急いでスカイプをiPhoneにダウンロードし、妻と連絡をとるようにした。アメリカからも連絡をたくさんもらったが、Facebookに一言「私は無事です!」と投稿すると、家族や友人の多くがそれを見て安心してくれた。会社から社員に安全確認をするにも電話も通じず、出勤できない社員も多かったので、会社用Facebookを一日で立ち上げ、全従業員にメンバーになってもらい、業務連絡を外から確認できる仕組みをつくり、業務時間の変更や非常用グッズの提供などを伝えていった。

阪神大震災の時は、ラジオが情報伝達の重要な媒体であったが、今回は既存マスコミよりインターネットが効率的だった。テレビや新聞は、じっくりと取材して解説が詳しいのは良いが、速報性と情報の豊富さはインターネットが勝っていた。放射能情報など気になる事柄は多いが、各国の大使館サイトや外国の専門家も積極的に情報提供をしており、さまざまな視点から状況が理解できるようになったのは素晴らしい。

 業務を維持するために

従業員の安全が確認できたら、業務を維持し、同じ製品・サービスを提供し続けることが大切だ。地震により、業務維持が困難な被災地の経営者の方々は、本当にお気の毒である。また、東北で生産される部品が足りず、業務維持が難しいメーカーも多々あると聞く。一刻も早い復旧が望まれる。しかし今回のことで、リスク分散の必要性について再認識した経営者の方も多かったのではないか。

東北にしろ、東京にしろ、特定の地域にすべての情報や人材を集めるのは危険性が高い。たとえば、取引先の医薬品会社は、阪神大震災の教訓から事前に対策を行っており、ある物流センターが機能しなくなったらどこがカバーするかの体制を作り、物流のシステムも海外も含め各地にバックアップをとっていた。おかげで、必要な薬を災害地に届けることができたそうだ。

当社は企業向けホームページサービスを提供しているが、計画停電の影響や交通機関の不安定さから、東京のサポートセンターの一部をすぐに大阪に移し、以前とほぼ変わらないサービスを提供することができた。その際もインターネット会議システムを活用して、重要な会議を継続的に開くことができた。オフィスに来ることができない社員には、セキュリティを確保したVPN*経由でファイルを共有するなど、インフラを活用して業務を進めた。

今後はさらに、沖縄や海外にも拠点を置いて、リスク分散を行うとともに事業拡大をするチャンスをとらえていきたいと思っている。

 顧客に効果的に情報を伝える

自粛ムードが続く中、被災地以外でも売上の減少に苦しんでおられる企業は多いことだろう。従業員の雇用を確保するためにも、何としても営業活動を続け、売上を確保することが重要だ。こんなときこそ、業務を続けていること、元気でやっていること、さらにビジネスを伸ばしていこうと思っていることを、広く顧客に伝えていきたそのためには、この講座でも何回か述べてきたマーケティングの考え方を活用していただければ幸いだ。

すなわち、顧客を知り、何が自社の強みかを知り、競合の動きを理解し、どの販売チャネルなら売上を確保しやすいかを考え、ITを活用したコミュニケーションツールをうまく使って、顧客に効果的に情報を伝える…ということである。震災支援について、会社で考えていることやできることをプレスリリースする、ホームページで営業活動を告知する、新規顧客や既存顧客に今の状況をメールやDMで知らせるなど、できることはいろいろある。  

ITとマーケティングで中小企業を元気に、というのは弊社のスローガンであるが、今回ほどその思いが強くなったことはない。どうぞ一緒に、そして元気を出してやっていきましょう。

[ 戦略経営者(株式会社TKC発行) 2011年5月号記事 ]
執筆:アイ・モバイル株式会社 代表取締役 デービット・リーブレック
【プロフィール】
アメリカ、オレゴン州生まれ。
ジョージタウン大学でMBA取得。 大学時代には交換留学生として、早稲田大学ビジネススクールで学ぶ。東京銀行ロンドン支店P&G勤務後、コンサルティングのBooz Allen & Hamilton社(東京及びサンフランシスコ)のマネージャーを経て独立。
2000年にアイ・モバイル株式会社を創業。

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