実践編 第9回 既存顧客との”絆”を強くする

最近、私の故郷オレゴン州の、ユージーンという街に出張する機会があった。80年代に日本で放映された、「オレゴンから愛」というTVドラマの舞台として、ご記憶の読者もいらっしゃるかもしれない。山があり、たくさんの牛がいるところだ。オレゴンの多くの街は、まだ不況のただ中にあるが、ユージーンに関しては、建設中の建物も多く、活気がある。その大きな要因はオレゴンに本社を置くナイキ社の存在だ。

1972年に設立されたナイキは、創業者二人がオレゴン大学出身で、大学とのつながりが強い。オレゴン大学は、現在スポーツ科学のメッカとなり、多くの優秀な学生を引き付け、雇用も増やしている。少数の経営者の思いが、地域経済の活性化につながっているのは素晴らしい。  

出張ではカリフォルニア州のシリコンバレーで、IT企業の経営者たちに会うこともできた。アメリカでは、あらゆる分野にITが活用されており、中小企業向けのサービスも充実している。最近では、中小企業が利用するウェブ広告に動画を入れることが人気だ。  

2010年には動画つきの広告が、前年の19%から26%に増えたという。動画がある広告は無いものより問い合わせや購入が8%高い(**)。  

また、FacebookなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で顧客との関係をつくり、ファンを増やす例もよく見られる。

 クレームはチャンス

さて、今回のテーマは既存顧客とのコミュニケーションについてである。中小企業の経営者は実感されているであろうが、新しい顧客を得るのは本当に大変なことで、一般に販売コストは既存顧客の五倍はかかると言われている。そもそも、一度顧客になった人を大切にすることは、感情的な面からも重要で、従業員のモチベーションにも影響する。自社の製品やサービスをいったんは興味を持って買ってくれたお客様である。その縁を少しでも大切にしたい。そもそも企業が顧客を失う原因の7割近くが、従業員に十分に関心をもってもらえなかったからだという。不満を持つ顧客のうち苦情を言うのは4%で、残りの96%はただ怒って二度と来ない。静かに去っていく(***)。

中小企業向けホームページ作成サービスを提供しているわが社でも、幸か不幸か、お客さまからのクレームをいただくことがある。しかし、話をじっくりお聞きして問題を理解し、弊社ができることを説明しながら解決案を真剣に考えて話し合うと、ほとんどの場合はよりよい関係を築くことができる。ファンになっていただくことさえある。まさに、クレームはチャンスだ。

顧客との関係維持は、マーケティングにおいても重要なテーマである。継続的関係を維持するために、顧客の購買行動の分析やプロセスを管理することを目的に、C RM(顧客関係管理)という手法が二〇〇〇年頃から発展した。しかし、顧客の情報を量的に記録し、機械的に対応するだけで、顧客との真の関係を築きにくいという批判もある。

そんな中、顧客が製品やサービスを決める・買う・使う段階で企業と接するときに「経験する価値」を高めようとする考えが出てきた。これをCEM(顧客経験管理)というが、顧客側の視点に立って「顧客が商品を買う過程でどう感じたか」が重要となる。  

顧客は、自分だけに関心を持ってコミュニケーションをとってもらうことを望んでいる。顧客のことを、細かく把握できるのは中小企業にとっての強みだ。もしできていなければ、顧客データベースを作って、購入決定の至るまでのプロセス(商品を知るきっかけ・購買の場所・使用の状況)などを蓄積していこう。その人にもっとも適した、コミュニケーションの手段も記録するといい。顧客データベースを分析して、電話がもっとも有効だと判断をしたら、集中的な電話コール日をつくって効率的に電話するのもいい。若い顧客が多い場合は、メールなどITを使うのが効果的だ。まずは、顧客の属性をしっかり把握するのが重要である。

 コミュニケーションの手段

1.アナログな方法  

訪問・電話・手紙など昔ながらの方法も捨てがたい。顧客によっては、これらの方法しかコミュニケーションができない場合もある。実際、生身の人間が時間をかけて対応することで顧客がファンになってくれる可能性は高い。企業側にもダイレクトに反応が伝わり、何が顧客の心に響くのかが理解しやすい。また、ダイレクトメールの反応はほとんど無くても、個別の顧客に向けての挨拶状のような形式なら開封してもらえる可能性は上がる。

2.IT活用

1)メール連絡
顧客のメールアドレスがわかった場合、新製品情報などをお知らせしてみよう。相手の嗜好や状況に合わせ、個別に近いメールを送ると効果がある。顧客データベースから選択し、特定の属性の人に向け大量にメールを送る無料ソフトも数多く提供されている。誕生日にクーポン付きでメールを送ったり、過去に購買した商品と関係する追加製品の案内するのもいいだろう。

2)メールマガジン
読者登録をしてもらう必要はあるが、定期的にメールマガジンを出すのも、顧客に覚えてもらうのに役に立つ。すぐに反応がなくても、継続的な関係作りには有効な方法だ。スタッフが交代で書けば、文章力がついて社員教育にもなるという話も聞く。現場で聞く、お客様の喜びの声を紹介するのは説得力が増して良いだろう。

3)SNSの活用
何かと話題のツイッターやFacebookも、既存顧客とのコミュニケーションにはうってつけである。ネットは公開の場でもあり、知っている人が周りで見ている可能性も高い。飲食店の予約キャンセル率も低いようだ。また、顧客が自分の経験や感動を投稿してくれるようなら、他の人にも共有されて良い影響となる。 たとえば、リーガロイヤルホテルのドアマンは、五〇〇〇人の顧客の顔と名前と車を記憶しているという。そこまでは無理としても、営業マンなら1000人の顧客の顔を思い浮かべることはできるだろう。その頭の中の情報は、本当に貴重である。ITサービスは無料のものも多いので、うまく活用しながら顧客とのコミュニケーションを取れるようにしていきたい。


〈参考資料・文献〉  
**WebVisible社
‘Reality Check’ for 2011 Digital Marketing Trends
米・英・豪の中小企業広告21,000の分析より
***「サービスが伝説になるとき」(一九九六年 ダイヤモンド社)

[ 戦略経営者(株式会社TKC発行) 2011年4月号記事 ]
執筆:アイ・モバイル株式会社 代表取締役 デービット・リーブレック
【プロフィール】
アメリカ、オレゴン州生まれ。
ジョージタウン大学でMBA取得。 大学時代には交換留学生として、早稲田大学ビジネススクールで学ぶ。東京銀行ロンドン支店P&G勤務後、コンサルティングのBooz Allen & Hamilton社(東京及びサンフランシスコ)のマネージャーを経て独立。
2000年にアイ・モバイル株式会社を創業。

次の記事へ 前の記事へ
マーケティング講座TOP

※ 株式会社TKC発行のビジネス情報誌「戦略経営者」に掲載された連載記事を掲載しております。