実践編 第6回 高価格をどう実現するか

 長引くデフレの中で…

モノやサービスの価格が下がり続けている。リーマンショック後物価は落ち続け、二〇〇九年三月から消費者物価指数は、前年同月比でずっとマイナスだ。追い打ちをかけるように円高が進み、安い輸入品が大量に入ってくる。日本が高い技術力を誇っていた太陽光パネルのような製品でさえ、安い中国製品の影響で値下げを余儀なくされている。中小企業の経営者も、自社の製品やサービスの価格をどうするか、日夜頭を悩ませておられることだろう。価格はマーケティングの中でも動かしやすい要素である。しかし、もっとも危険で経営への影響も高い。デフレのなか、これからは価格を下げていくしか方法はないのだろうか。

 中小企業は高付加価格で勝負

このような時代でも、高価格で製品やサービスを売っている企業はある。特に中小企業の場合、薄利多売でモノを売るのは限界があろう。付加価値を上げて高価格で売れる道がないか、情報収集をし、対策を考えたい。まずは、自社の商品のターゲット層やニーズを分析し、それぞれの層に合う価値を提供して価格に納得してもらおう。

実際、どのような業界でも、ターゲット層やニーズに合わせて三〜五種類の価格帯を持っている。わが社は、中小企業向けのホームページサービスを提供しているが、三種類の価格帯がある。高価格帯のコースでは、集客支援をするための個別の検索対策を行い、更新代行や活用のためのアドバイスといったサポートを提供している。 このコースは現在、新規契約企業の四七%を占めており、二年前の二四%から大きく伸びている。インターネットが普及して、顧客の要望が複雑化してきているなか、付加価値の高いコースが選ばれているのだ。

 顧客の評価を理解する

中小企業では、製品やサービスの価格を社長が決めることが多いだろう。一般的な価格設定の方法はマーケティング講座基礎編をご一読いただくとして、今回はできるだけ高価格で販売するヒントをご提示したい。

1.価格設定の目的を明確化
自社で高価格の商品を販売したい場合、その目的や位置づけは何であろうか。新たにリッチユーザーを獲得したいか、既存ユーザーの単価アップを図りたいか。ターゲットやそのニーズを見極めることで、おのずと目的は見え、ごとに設定する価格が決まる。まずは目的を明確にして、自社製品のブランドの方向性を決めて価格を設定しよう。

2.参照価格の把握
企業も消費者も、過去の購買履歴や市場価格と比べて「この製品はこれくらいの値段だ」と感じる価格帯を持っている。これを参照価格と言う。顧客が妥当な価格と感じる幅を理解することが必要だ。また、めったに買わないもの、もともと安いもの、代替製品や競合他社が存在しないものは、値段に鈍感になりがちだ。わが社の顧客で地方の、あるケーキ屋さんは単価二百〜五百円程度のケーキを売る中で、新たな高価格ケーキの販売に成功した。ウェディングケーキである。カップルの思い出に合わせて作るオリジナルウェディングケーキは、参照価格がほとんどない。三万円でも五万円でも、遠方からでも購入する人はいる。

3.競合や市場の分析
自社の商品が史上初である、その地域で一軒しか販売していないなどの条件ではない限り、競合他社や市場状況を分析することは必須である。もっとも近い競合他社を分析し、その価格やコスト構造まで理解したい。自社の製品やサービスに、競合他社が提供していない価値があるのなら、その分を価格アップできるだろう。それがないとすれば、ぜひとも製品の改善強化に戻って、顧客が納得できる付加価値を提供したい。  

4.対価はどの財布から来るか
一般消費者でも企業でも、出せるお金の額はある程度決まっている。どの支出を削って買ってもらえるのかをよく考える必要がある。今、若者向けの製品やサービスのほとんどが、競合は携帯電話やインターネットであると言われている。いかにそれらに使う時間やお金を自社の商品に回してもらうかを考える必要がある。  

5.価格の意味を伝える
高価格で販売するためには、その理由を社内にも顧客にもしっかり伝えて説得する必要がある。大切なのは、企業が思う「○○の成分が入っているので価値がある」といったものでなく、「他社より○%薄くて強度は同じ」など、顧客が知覚できる価値だ。  

6.割引価格の限定運用
早期割引、学生割引など、世の中には数多くの価格キャンペーンがある。最近ネットで話題になっているのは「フラッシュマーケティング」である。これは、期間や量を限定してクーポンをオンライン販売する方法だ。試用後の購入率が高い製品、一度始めると継続するサービスなど製品力があるものなら効果的に利用できるだろう。ただし、なぜ割引なのかを理由を明確にし、顧客が割引に慣れないように運用には細心の注意を払っていきたい。Appleの創業者である、スティーブ・ジョブズ氏は、iPodの価格が三〇〇ドルとは高いのではないか、という質問に対して、「iPodより高価なスニーカーもある。」と答えたという。顧客に満足してもらう付加価値を提供することで、高価格での勝負をすることが可能になるのである。

[ 戦略経営者(株式会社TKC発行) 2011年1月号記事 ]
執筆:アイ・モバイル株式会社 代表取締役 デービット・リーブレック
【プロフィール】
アメリカ、オレゴン州生まれ。
ジョージタウン大学でMBA取得。 大学時代には交換留学生として、早稲田大学ビジネススクールで学ぶ。東京銀行ロンドン支店P&G勤務後、コンサルティングのBooz Allen & Hamilton社(東京及びサンフランシスコ)のマネージャーを経て独立。
2000年にアイ・モバイル株式会社を創業。

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