実践編 第5回 ITツールを活用した製品開発 

 市場広げるドイツの中小企業

10月の半ば、私はドイツのニュルンベルクやミュンヘンを訪問する機会があり、かの国の産業や中小企業の状況など、いろいろと見聞を深めることができた。ドイツは、日本と似たところが多い。とても清潔で秩序正しく、街並みも美しい。世界有数の先進工業国であり、ベンツやBMWをはじめとする、高品質で洗練されたデザインのモノづくりに定評がある。

ミュンヘンにある、アリアンツ・アレーナ・スタジアムは2006年のサッカーワールドカップ会場だったが、世界でもっとも美しく機能的な球場の一つであると言われている。繭のような外観は半透明の特殊フィルムで覆われており、素晴らしいデザインだ。スタジアム内から景色を眺めることができ、試合開催日はクラブカラーに合わせて球場全体が赤・青・白にそれぞれ発光する。ちなみにこのフィルムは、日本の旭硝子が納品したものである。

ドイツの企業のうち、99%は中小企業である。興味深いのは、EU(欧州連合)誕生の際の環境変化だ。統一貨幣のユーロ導入や関税撤廃などを背景に、ドイツの中小企業は一気に新しい市場に出ていくことができるようになった。その優れた品質・デザイン・技術は、他国の消費者にも支持され、EUの中で、リーダー的な存在となっている。今、日本の中小企業も、アジアの国々を市場としてビジネスを拡げようとしているが、何か参考になることはないだろうか。今回の出張で、20年前に私がドイツを旅行したころより、英語がずっとよく通じることに気がついた。ドイツは今、英語教育に大変力を入れているそうだ。日本でも、英語を社内公用語とし、研修を熱心に行う企業が出てきているが、世界にビジネスを広げていくには重要だろう。

 成長に必要な製品開発

さて、今回のテーマは製品開発である。新製品を開発し、顧客や市場を広げていくことは、企業の存続と成長にとって不可欠である。自社の製品やサービスのどこに時間とお金と人を投資すべきか、経営者としてはよく考えなければいけない。

新製品を生み出すためのアイデアを創出するためには、いろいろな情報源をもつことである。この連載でも何度か解説している、顧客の声を聞き、個別にインタビューをし、アンケートを取ることはまず第一歩である。
従業員もまた、いろいろなアイデアを持っているものである。スリーエム(3M)は15%の勤務時間を、グーグルは20%を、個人的に興味のある研究活動に使って良いというルールがある。
従業員からの改善提案も、新製品開発や改善のヒントになる。弊社でも先日、「改善提案カップ」と称して、全従業員から改善提案を受け付けた。一提案500円、一等は1万円と賞金もつけ、イベントにして楽しんだ。次世代のアイデアや、高品質のホームページを作成する業務改善などがあり、早速役立てている。
トレードショーやセミナー参加も、有効なアイデア源である。こういったところには、業界最先端の情報や製品が集まっており、効率的に情報収集ができる。特にセミナーでは、講師が少人数を相手に絞られたテーマでレクチャーをしてくれるので、自分で資料を探すより効率的に情報収集ができる場合も多い。

TKC全国会が毎年秋に行う経営革新セミナーでは、4年前からわが社もITやマーケティングのテーマで講師派遣をしている。企画に知恵を絞り、ノウハウを結集して準備をする。今年も弊社の講師が、読者の方とお目にかかる機会があるかもしれない。

 ネットは強力な武器

今までに述べた方法に加え、インターネットは、中小企業にとって強力な武器である。最は、ミクシィやツィッターなどのSNS(ソーシャルネットワークサービス)を使って、コメントやキーワードを収集している企業も多い。製薬会社が患者の疾病ごとにコミュニティを作って運営を支援し、どのような問題が話し合われているのかを観察するという例もある。あなたの企業のターゲットとなる人が集まるSNSに参加してその会話を読み、こちらからも案を投げかけて反応を知るのはアイデアを生む良い方法だ。  

新製品を作る上で、今までと異なるパートナーが必要になることも考えられる。楽天ビジネスやアリババといったサイトなら、様々なジャンルの企業が紹介されており、無料で見積もりも出してくれるのでアイデアの実現に役立つ。アリババで出会ったアジアの企業との連絡に自信がない場合も、翻訳や輸入を代行するサービスも併せて紹介されている。  

新製品開発と販売を商売として同時に行っている例もある。今、アメリカで人気のあるTシャツのコミュニティサイト(http://www.threadless.com/)では、一般の人からオリジナルTシャツのデザインを募集し、評価を受けて、人気が出れば注文販売をしている。  
この会社ではTシャツを作っておらず、外部に制作を依頼する。Tシャツに限らず、このような形で、新しいアイデアの収集と実現を同時にすることもできる。

 ITで顧客の声を聞く

新しく生まれたアイデアや製品が成功するのか、その検証も重要である。新製品を成功させるのは非常に難しい。調査会社のニールセンによると、日用品の新製品のうち二五%しか市場に残らないそうである。業種によっては、もっと低い成功率のものもある。少しでも成功に導くためには、早い段階で、マーケティングを考える必要がある。顧客のニーズや市場の状況に合っていなければ高い技術力があっても売れないのだ。  

まず、必要なのはアイデア自体の検証である。新製品案を作ったときと同様に、顧客の声を聞いてみることだ。ターゲットとする顧客の声を聞いて、テストしてみることが重要である。また、ものにもよるが、世の中にどんどん出して反応を見ていくという方法もある。グーグルは、多くの先駆的なサービスをβ版として世に出しているが、実は止めていったサービスも多いようだ。形になった段階から世の中に早く出すことで、一歩先を行くことができる。会員制のサイトで新製品を小規模に告知・販売して、問題がないか、顧客の反応はどうかを検証するのもいいだろう。製品サイクルはどんどん早まってきているので、時間をかけるよりまず世に出して、良いなら残す、ダメなら止めて新しい分野に投資をするといった戦略を立てる必要があるだろう。  

中小企業では、製品開発部やマーケティング部に十分な投資ができない場合もあるが、ITがその代わりとなる場合があるので、ぜひご活用されたい

[ 戦略経営者(株式会社TKC発行) 2010年12月号記事 ]
執筆:アイ・モバイル株式会社 代表取締役 デービット・リーブレック
【プロフィール】
アメリカ、オレゴン州生まれ。
ジョージタウン大学でMBA取得。 大学時代には交換留学生として、早稲田大学ビジネススクールで学ぶ。東京銀行ロンドン支店P&G勤務後、コンサルティングのBooz Allen & Hamilton社(東京及びサンフランシスコ)のマネージャーを経て独立。
2000年にアイ・モバイル株式会社を創業。

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