特別編 顧客の声を経営に活かす-事例-

この講座では、今までマーケティングの基本や実践方法を解説してきた。いずれも根幹となるのは、「顧客の声を聞いて経営に生かす」ということである。今回は特別編として、アイ・モバイルの提供サービス「顧客力診断」を利用して、自社と顧客の認識のギャップを理解し、ビジネスの強化に役立てた事例をご紹介しよう。  

セリザワスクエアは、静岡県御殿場市の閑静な住宅街にある理容室だ。性別を問わないユニセックスサロンで、創業して34年。以前は女性客が2割程度であったがもっと増やしたいと、2年前に店舗をリニューアルした。こだわりを感じる店は、オープンカフェのような外観で、店の看板やテラスもおしゃれだ。ヘッドスパなどリラックスできるメニューを充実させ、女性客は現在四割程度に達している。社長は毎朝トイレをきれいに掃除するのが習慣であり、従業員も店の周りだけでなく近所の公園まで掃除をしている。地域に支えられてこその店であるという感謝の気持ちを忘れないという。

 売上増のヒントを得たい…

セリザワスクエアでは、過去にも調査会社を使って満足度調査を行うなど、顧客の声は意識して聞くようにしていた。今回、さらに踏み込んで顧客力診断を実施しようと思ったのには、訳があった。芹沢利雄社長のご子息は美容師であり他店で働いていたが、地元に帰ってセリザワスクエアの2店舗目となる美容院をオープンしたいという計画があったのだ。また、不況の折、理容室の経営は一般に厳しいが、何とか売上増に繋げるヒントを得たいとの考えを持っていた。

2009年5月〜6月の2週間、店頭に来店した顧客約200名から店頭ボックスでアンケートを回収。また、社長も含め従業員七名全員に、顧客とほぼ同様の内容でのアンケートを行った。質問項目は、来店のきっかけ、今日利用したメニュー、総合満足度、良い点・良くない点など。また、図解入りでマッサージしてほしい場所を聞き、今後のサービスメニューの参考になる情報も収集した。

データは様々な角度で分析され、調査を行ったアイ・モバイル社の分析担当者が、セリザワスクエアの顧客の声、傾向、改善点などを8月に報告した。

芹沢社長は言う。
「以前行った調査と顧客力診断の違いは、お客様の目線と自分達の目線とのギャップを分析してもらったことですね。今まで思ってもいなかったことに、お客様と我々の間で意識の違いがあることがわかり驚きました。たとえば、駐車場の案内がわかりにくいという意見が出てきたのですが、駐車場は店舗の真横に設置し、看板も掲げているので、まさかわかりにくいとは思ってもいませんでした。こちらが意識していない、スタッフのユニフォームについても、意外にコメントが多く寄せられ、想像以上に見られていると感じました。シャンプーやマッサージも人によって感じ方が違うということに、改めて気付かされました。どうしても、業務がマンネリ化しがちなのですが、改善すべき点を気付かされた思いがします」

 改善点が明らかに

セリザワスクエアの顧客力診断の結果は、全体的には非常に良いものであった。78%の顧客がサービスに対し「非常に満足」であり、「やや満足」を足すと 97%もの高い満足度であった。技術の高さやスタッフのコミュニケーション能力の高さ、接客の良さ、店内の雰囲気などが評価されていた。  

一方、改善点もいくつか指摘されており、次の点を見直していくことになった。  

(1)メニュー、金額が分かりにくいという声があったので、受付の後ろに大きく料金表を掲示した
(2)ユニフォームを季節ごとに変えるようにした
(3)お客様の椅子の前にある鏡の横に、おすすめのメニューなどのPOPを貼り付けた
(4)駐車場の案内を受付けに大きく貼った
(5)お客様に出す飲み物は以前はコーヒーだけだったが、種類を増やした
(6)シャンプーやマッサージの強弱を、お客様の頭皮の状態や感じ方に合わせて一人ひとり変えるように見直した

 従業員の意識が向上

「女性客が増えて、顧客単価が上がりました。新規のお客様が、紹介という形で増えたのです。どちらかというと年配の方が多いのですが、それもスタッフが 会話を増やし、家庭的な雰囲気のあるところが気に入られたのではないかと思います。私はよく、〝口を動かすより手を動かせ〞と指導していたのですが、意外 にお客様がスタッフと話すことを楽しんでおられることがわかったので、コミュニケーションを活発にするようにしたのです。また、おすすめメニューをアピー ルしたせいか、ヘッドスパなどのオーダーも増えました。スパだけ、やっていかれる方もいます」と芹沢社長は言う。 この不況の中、月にもよるが、売上は前年対比で10%前後の伸びを見せ、顧問税理士にも驚かれているそうだ。さらに、従業員の意識が変わったという。

「常々、私は、誰が店長になってもいいように、それぞれが経営者の視点をもつようにという話をしています。顧客力診断の報告会も、スタッフ全員で出まし た。全体的に、従業員が思う自己評価よりお客様の評価が高く、スタッフの自信につながりました。〝自分を売る〞〝店を売る〞という意識を持つように、とス タッフには指導していたのですが、この調査結果を受けて実際に自信がついたようで、お客様からの指名も増えてきました。 そうなると、それぞれのお客様にスタッフが一生懸命に対応し、継続的な良い関係が生まれています」 セリザワスクエアでは、今後もまた顧客の声を聞く機会を持ちたいとのこと。8月には、二号店であるご子息の美容院も無事オープンすることができた。

「明日から10月ですね。またユニフォームが変わるんです。新しいユニフォームを着ると、清潔感もあってお客様との会話にもつながりますね」 セリザワスクエアの挑戦はまだまだ続く。

[ 戦略経営者(株式会社TKC発行) 2010年11月号記事 ]
執筆:アイ・モバイル株式会社 代表取締役 デービット・リーブレック
【プロフィール】
アメリカ、オレゴン州生まれ。
ジョージタウン大学でMBA取得。 大学時代には交換留学生として、早稲田大学ビジネススクールで学ぶ。東京銀行ロンドン支店P&G勤務後、コンサルティングのBooz Allen & Hamilton社(東京及びサンフランシスコ)のマネージャーを経て独立。
2000年にアイ・モバイル株式会社を創業。

次の記事へ 前の記事へ
マーケティング講座TOP

※ 株式会社TKC発行のビジネス情報誌「戦略経営者」に掲載された連載記事を掲載しております。