実践編 第2回 顧客・市場を調査してみる

前回は、顧客の声を聞くことの重要性と、顧客を理解しているかをテストする方法をご紹介した。 今回は、「調査」によって顧客の声を深く、より正確に聞く手法をご案内したい

 なぜ、調査を行うのか

現在、世の中で、どれくらい調査が行われているかご存じだろうか。日本の市場調査業界の推定規模は1766億円もあり、不況下でも微増している安定したマーケットである(社団法人日本マーケティングリサーチ協会2009年調査)。  

調査を多く行う広告代理店や消費財メーカーは、ある商品が売れるかどうかを事前に予測するために大規模な調査を行う。場合によってはひとつのブランドに対し、年間一億円を超える調査を行うことすらあるが、それで工場の建設や販売地域の拡大など大きな投資をするかどうかを決められるのなら安い投資と考えているのだ。とはいえ、こんな話は大企業のもので、中小企業には無関係であろうか。  

インターネットの普及で、最近は簡単に情報を得ることができ、調査も可能になった。今や中小企業こそが、このようなツールを活用して顧客や市場の声を聞き調査を行うことが、他社と差別化して生き残る上で重要である。  

何かを知りたいとき、まず世の中に存在する情報を探してみよう。これも立派な調査で、「デスクリサーチ」と呼ばれる。わが社でも新しいプロジェクトを行う際には、まず机に座って、知りたい情報を何日も探す。インターネットで検索すると、最近は豊富な情報が幅広く手に入るものである。総務省、厚生労働省など政府機関も様々な統計データを公開しており、現状を理解するには便利である。各種プレスリリース、新聞社のデータベースの利用も良いし、大手書店に行って関連コーナーをぶらつくのも意外な情報が得られるものである。

 現状を正しく認識する

自分の知りたい個別の問いには、答えるデータがどうしても見つけられない場合がある。質問がシンプルなものならば、自分でまわりの人に聞くのも良いだろう。「なぜ○○を購入したのか」を、様々な角度から聞いていくような手法を定性調査と言い、行動の背景を理解し、新しい仮説を発見し、アイデアを得たいときなどには有効である。  

昔、私がP&G社にいて大人用おむつの担当になったとき、「寝たきり老人」の家庭を100軒近く訪ねた。当時は日本に住み始めたころで日本語もつたなく、変な外人に皆さんよく我慢して話をしてくれたと思う。私も一生懸命、大人用おむつの使用状況や要望について聞き、新しい商品の提案をまとめた。それらを元に開発された大人用おむつはヒット商品となり、前年比20%の売上増となった。実はそのとき、私の大好きな祖母が寝たきりになっており、この大人用おむつをアメリカまで贈ったところ、とても使いやすいと言って喜んでくれた。市場のニーズを理解することで、良いものを作り喜ばれる、この時の感動は、今でも忘れられない。  

一方、「ユーザーの60%が満足している」というように、多くの人の回答結果を%や平均値等で数値化して分析する手法を定量調査という。定期的に行えば、昨年の50%から今年は60%に上がった、など変化を理解することもできる。  

わが社では、ホームページサービスを提供しているが、毎年のようにユーザーにアンケートを取っている。インターネットでも取るし、インターネットに不慣れなお客様にはファックスでも回答できるようにしている。  

アンケートイメージ 数字が出てくるとわかるのが、どの分野が強みなのか弱みなのかという点である。社内では「提供しているホームページのデザインが今一つではないか」という意見が多く、デザインパターンの増加などが予定されていた。しかし、実際に調査をすると、デザインについての満足は意外に高く、むしろ検索対策への要望が多いことがわかった。デザイナーの数を増やすより検索エンジン対策に長けた専門家を増やす方が良いとなり人員計画を変えたものである。  

また、このアンケートだが、自由回答欄を読むのも実に参考になる。「サポートの方の言葉使いがとても丁寧です」とほめていただければ社員教育に自信が持てるし、「更新に時間がかかりすぎている」という声があれば、なぜ時間がかかりすぎるのか、人員不足か能力不足かという問題発見になる。また、あるユーザーから「ホームページのイメージが良すぎて、大会社に思われてしまう。ギャップで販売に結び付かない。大会社に見られたいわけではない」という声があった。イメージが良すぎて不満を持たれることがあるとは、驚きであったが、それが販売の障害になるのであれば、こちらの自己満足でデザインすべきではない。  

調査をしながら発見をし、全体および個別に改善を続けていったところ、顧客数も増え、現在は全国で6000件の作成実績を持つまでになった。まだまだ発展途上ではあるが、調査をすることで、現状の認識や確認ができるので、私は、調査がとても好きである。

 従業員の声も聞いてみる

余談になるが、弊社では、従業員満足度調査というものも定期的に行い、社員の声を聞いている。  

現在150名ほどの社員がいるが、30名のときから毎年行っている。よく他の経営者に「勇気があるね」と感心されて苦笑する。確かに経営者としては、社員が会社をどう思っているのかを知るのは非常にこわい。満足度が下がっているときは、社内の雰囲気も悪い。そして、「経営者や管理職から十分な情報が伝わっているか」、「仕事をするための十分な資材が提供されているか」、「教育は十分か」といったことを聞くことで、どの点が問題なのかが理解できる。ほとんどの場合、驚くほどみんな会社のことを考えていることがわかる。結果がどうであれ、従業員に公開して、質問や不満は具体的に回答するようにしている。

 調査のプロへの相談

調査の設計・実施・分析は、その道のプロに相談してまかせてしまうのも時間や質の面で効率的な場合がある。弊社でも、自社サービスを調査する一方、中小企業向け調査サービスとして、顧客と従業員との声を聞く「顧客力診断」を36万7500円(税込)で提供している。  

ただし、調査結果をどう使って売上をアップさせるのか、業務効率を上げるのか、従業員のやる気を出すのかといったことは、経営者しか判断ができないはずである。顧客なり従業員なりの調査は、経営者が通信簿をつきつけられるようなものである。売上や利益と言った数字も大切であるが、中長期的に経営を強化し、前を向いて成長するためにあなたも行動することをお勧めしたい。

[ 戦略経営者(株式会社TKC発行) 2010年8月号記事 ]
執筆:アイ・モバイル株式会社 代表取締役 デービット・リーブレック
【プロフィール】
アメリカ、オレゴン州生まれ。
ジョージタウン大学でMBA取得。 大学時代には交換留学生として、早稲田大学ビジネススクールで学ぶ。東京銀行ロンドン支店P&G勤務後、コンサルティングのBooz Allen & Hamilton社(東京及びサンフランシスコ)のマネージャーを経て独立。
2000年にアイ・モバイル株式会社を創業。

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