実践編 第1回 まず顧客の声を聞いてみよう

今年の5月号まで、10回連載で「行動する経営者のためのマーケティング基礎講座」を掲載する機会をいただいた。そのなかで、マーケティングの歴史や知識、最新の手法などをご紹介してきたが、今後は、より踏み込んだ「実践編」として、すぐに使えるヒントやマーケティング手法を活用してビジネスを成功させている実例などをご紹介していきたいと思う。

 マーケティング思考とは

当社は、2000年の創立以来、ITマーケティングに関する様々なサービスや製品を提供している。 現在、各種の調査を見ても、中小企業でのIT活用は十分でなく顧客調査を行っている会社も半分に満たない。手ごろで使いやすい技術とサービスで、多くの中小企業の方々を応援し、元気になっていただきたいと思っている。  

私は、アメリカの大学院でMBAを取得し、マーケティングを理解したつもりで、意気揚々と社会に出た。 日本で初めて働いたのは、P&Gという、マーケティングの学校とも言われている会社であった。子ども用おむつ「パンパース」の担当となり、売上促進のために企画をたて、マーケティング理論を熱心に説いたが、意見がなかなか受け入れられない。そんな私に当時の上司は、「デービット一度理論は忘れて、消費者の声を聞いてみなさい。消費者が求めていることなら、みんなが納得してくれますよ」 と言うのである。そこで、製品を使っている主婦の声を聞き、店を訪ねて、消費者の生活や要望を理解しようと努力した。また、P&Gでは、消費者の生活習慣を大規模に調査して分析し、グループインタビューを実施する機会も得た。それらを元に、お客様の代表になったつもりで製品改善を提案したところ、関係部署の人たちも納得し、販売増にもつながった。  

その後、経営コンサルティングの会社に移り、大企業の経営者たちと、会社の改善強化のための経営戦略を練ることになった。そこで再認識したのは、会社を経営する際には、顧客の声を聞き、理解することが根本的に重要であるということ。うまくいっている会社は、大企業であっても常に顧客の声を聞きながら経営を考えていたのである。会社創立後は、多くの中小企業の社長や税理士の方々に会う機会を得たが、成功している経営者たちは、ほぼ例外なく「聞き上手」であり、顧客の気持ちを感じる能力が高いようだ。顧客の声を聞くための努力をし、理解することに実に多くの時間を費やしているように見受けられる。

 〝顧客の側に立つ〞重要性

昨今、「顧客の声を聞く」「顧客満足度を高める」ことは、世間でもよく語られており、読者の皆様もその重要性についてはよくご存知のことと思う。自分は十分に顧客の声を聞いていると思っている方も多いだろう。  

しかし、本当に顧客の声を聞けているだろうか。聞けているつもりになっているだけ、ということはないか。そもそも、顧客の声を聞けているとはどういう状態のことなのか。机の端と端で分かれて向き合って話を聞き、顧客の話している事を理解することが「声を聞く」ということではない。「顧客の声」を聞くとは、「顧客の側に立つ」「顧客属性、住む世界、習慣を理解したうえで、そのニーズを理解する」ということなのである。

すなわち顧客と共感でき、顧客に成り代わって感情を表現する事ができる、場合によっては顧客が気づいていない顧客自身のニーズを言い当て、顧客の考えを顧客の代わりに整頓してあげられるようにならねばならない。  

具体的に顧客のことを知っているか、テストをしてみよう。

あなたは、顧客について次の五つの質問にすぐに答えることができるだろうか。次の質問に対して、まず顧客の言葉で答えてみたら、次にそれを検証してみよう。テレビコマーシャルの世界では、登場人物の着る服、背景となる建物や風景まで全部映るので、その製品を買うターゲットとなる顧客の年齢、趣味、生活環境、家族構成、性格などを細かく決める。そして、いかにも顧客が言いそうな自然なかつ、インパクトのある台詞を役者に話させる。  

よくできた広告は、ターゲットとなる顧客の声を徹底的に聞いて作って、その生活の一つを切り取っているのである。コマーシャルを制作するような大規模な計画がないとしても、顧客の声を理解して活用する、すぐに実践できる方法をご紹介しよう。  

1:顧客になり変わって会社への要望をプレゼンする  

朝礼などで、社長がそれをすると、経営者として会社の課題をどう理解しているか、真剣に解決しようとしているか、といった姿勢を社員にも見せることができて、会社の方向性を示すのにも有効である。  

2:社員が顧客の役をする、ロールプレイを実践する  

営業部などがよく商談のロールプレイをしているが、これはどの部署でも有効な方法である。製品開発やお客様相談室といった部署で、社員と顧客の役割分担をして、顧客として要望を話してみると、顧客の気持ちがぐっと理解ができる。社員を、徹底的に顧客になりきらせることが重要だ。  

3:顧客の具体的な生活(または仕事)シーンを、事例として紹介する 実際にユーザーである顧客の声を紹介することは、非常に有効である。できるだけ詳しく、その顧客のライフスタイル、年齢、職業、どうしてその製品を使ってどう役立ったのかなどを披露してもらうと、購入を検討している見込顧客にも具体的なイメージがつかめる。  

実名や写真を出してもらえば、さらに説得力が増す。これらの本当の「顧客の声」は、ホームページ、サービスパンフレットなどに入れると販売促進としても、非常に効果的である。  

以上、マーケティング思考を培うための第一歩である「顧客の声を聞く」重要性を解説した。来月以降も、様々な形でのマーケティング実践の方法をご紹介していきたい。

[ 戦略経営者(株式会社TKC発行) 2010年7月号記事 ]
執筆:アイ・モバイル株式会社 代表取締役 デービット・リーブレック
【プロフィール】
アメリカ、オレゴン州生まれ。
ジョージタウン大学でMBA取得。 大学時代には交換留学生として、早稲田大学ビジネススクールで学ぶ。東京銀行ロンドン支店P&G勤務後、コンサルティングのBooz Allen & Hamilton社(東京及びサンフランシスコ)のマネージャーを経て独立。
2000年にアイ・モバイル株式会社を創業。

次の記事へ 前の記事へ
マーケティング講座TOP

※ 株式会社TKC発行のビジネス情報誌「戦略経営者」に掲載された連載記事を掲載しております。