基礎編 第9回 販促・広告・営業の本質とは何か

「DMに書くのは、キャンペーン案内でもサービス内容の説明でもなく、顧客への心がこもった手紙である」とは、顧客マインド視点の的を射た指摘で ある。 中小企業にとっての販促とは、購買意欲をかき立てる作業ではない。購買意欲が既に湧いているお客様との出会いを設計し、演出し、会社や商品に魅力を感じ てもらう作業である。購買意欲をかき立てたり、購買意欲を創造したりする作業は大企業や業界、社会に任せればよい。  

かつて、バレンタインデーにチョコレートを送る習慣が一般的ではなかったとき、この習慣を一般的な文化にし、義理チョコを買うのが礼儀のように仕向けたの は「業界」である。チョコレートを扱う個々の中小企業は、この既にある「販促機会」に向けて出会いの準備をするのである。  

広告とは、ニーズがないお客様に商品の購入を説得する手法ではない。自分のニーズに気づいていないお客様に気づきを促したり、自分のニーズに気づいてい るお客様に知識や選択肢を提示したりすることで、次の行動を促す手段なのである。  

営業とは買いたくないお客様を説得して売る手法ではない。買いたいお客様、買う予算があるお客様、買うニーズがあるお客様と効率的に出会い、お客様の ニーズを引き出し、整理整頓し、自覚して頂く作業だ。会社が伝えたいことを話してはいけない。お客様が聞きたいことに、お客様が聞きたい順番で答えていく のである。 すなわち、販促・広告・営業といった行為は「顧客とのコミュニケーション」に他ならない。売りたい物をアピールするのではなく、出会いによってコミュニ ケーションが始まり、コミュニケーションを通じて関係を深め、ご用命いただくという行為なのである。

 コミュニケーションの設計

コミュニケーションを、他の業務と同じようにマネジメントするためには、最初に顧客コミュニケーションを計画する必要がある。計画とは何をす ればよいのだろうか。図1の1~3はコミュニケーションを構成する三つの重要な要素だ。コミュニケーションの計画とは、達成したい目的のために、「誰に」 「どんな情報」を「どんな手段」で伝えるのか…を設計することである。  

コミュニケーションの設計に入る準備として、まずは目的を明確にする。販促・広告・営業の目的は、購入までの心理プロセスを進めることにある。これから 設計するコミュニケーションの目的は、どのステップをどこまで進めることなのか…を自問する(図2)。  

コミュニケーション設計の第一段階は、相手は誰なのかを明確にする事である。相手が誰か…の仮説に加えて、相手はどういう状態か…どんな背景でその状況 になっていて、どんなニーズがあるのか…も検討する。販促を実施するにしても、広告を出すにしても、営業に伺うにしても、相手の性別、年齢、家族構成、趣 味、仕事、収入、服装、立ち振る舞いなどを明確にする。これは「ペルソナ法」とも言われる。ペルソナとはターゲットの詳細な人物像を指す。また、どんな シーンで販促企画や広告、自社の営業に出会うのかというシーンの想定も重要だ。どんな背景で自分のニーズに気づいて、どんな行為をしていたら広告が目に留 まったのか、さらに、その時の心理状態も想像してみる。 相手の仮説が固まったら、どのような情報を示すかを設計する。この場合の情報とは、販促企画のコンセプトや広告の画像、キャッチコピー、オファー、連絡 手段の表示、営業の場合は、営業担当者の容姿や立ち振る舞い、話し方、話す内容、説明資料、論理構成なども含まれる。  

並行して手段も検討する。手段は情報の制約条件となることがあるため、情報と手段は交互に繰り返し検討して固めるのがよい。手段を検討する際に注意する ことは、想定するシーンや相手の心理状態に出会うのに、その手段が最も適切か…を何度も問うことである。ターゲットが必ず通る道路に看板広告を出しても、 想定した状況、シーン、心理状態の時は、その場所にいないというのでは意味がない。食品の広告は空腹時に見てもらえるのが良いだろうから、帰宅途中に目す るような看板広告、その時間帯のメールマガジンなどが良いだろう。仕事中に飲むドリンクであれば、出社途中に目にするメディアが有効だ。人混みにいてジッ としていなければならない通勤電車で「ウイルス感染予防のためのマスク」が気になった人でも、新幹線に乗っているときは別のことが気になるだろう。面識が ない零細企業の決裁権者に営業訪問するために、テレアポで面談を申し入れるのは良いだろうが、大企業との取引を目指すのであれば無差別に電話するのではな く、紹介者(チャネル)を経由するか、展示会等で出会ってから営業訪問すべきだ。

 効率を測定しPDCAを回す

販促・広告・営業、すなわち顧客とのコミュニケーションをマネジメントするためには、ここまで申し上げたような手順で仮説を立てて設計をする だけでは足りない。他の業務と同じようにPDCAサイクルを回さねばならない。販促・広告・営業といった活動において、正しくPDCAサイクルを回してい る経営者は驚くほど少ない。適切なPDCAサイクルを回すためには、その打ち手が良かったのか悪かったのかが客観的に測定できなければいけない。ムダな投 資を防ぐためには、この測定と改善のサイクルが短ければ短いほどよい。  

インターネット広告が好まれるのは、計画から実行、測定のサイクルが著しく短いからである。インターネットなら顧客の反応を数秒.数分後に確認できる。 よって、一時間に数回の試行錯誤をすることさえ可能だ。訪問営業だったとしても日次で見直すこと、週次で見直すこと、月次で見直すこと、次のキャンペーン で見直すことを、それぞれ設定するべきだ。 さて、何を測定して良し悪しを判断するのか。最終的にマネジメントすべきはCPA(Cost PerAcquisition=顧客獲得単価)であるが、さらに細かく基準を設定する。何%が資料請求するか、資料請求者を一人獲得するためにかかってい るコストは、何%が見積や提案書の提示を許可するか、その許可を一件得るためのコストは…など、顧客獲得に至るプロセスごとに目標の数字、割合を設定す る。どの数値を改善するのが最も簡単か、即効性が高いか、最もインパクト が大きいか…を、継続的に考え、改善し続ける。  

自社のCPAを理解していない経営者が驚くほど多い。まずは、参考となる優良企業を探し、その会社の数値を目標とするのがよい。

なお、広告効果ばかりに目がいってしまい、自社の従業員や社長自身の時間を無駄に使っている例もたくさん見られる。CPAを考える場合は、すべての自社 リソース(ヒト、モノ、カネ)の投資状況を測定せねばならない。ここで言いたいのは社長自身および従業員の時間という投資コストの事である。客先で費やす 時間と、その時間における成果を測定し、見える化し、改善すべきなのである。営業担当者の快適のために営業時間を費やしてはならない。顧客の購買心理プロ セス(図2)を進捗させる事に貢献させるべきだ。「タイム・イズ・マネー」である。

[ 戦略経営者(株式会社TKC発行) 2010年4月号記事 ]
執筆:アイ・モバイル株式会社 代表取締役 デービット・リーブレック
【プロフィール】
アメリカ、オレゴン州生まれ。
ジョージタウン大学でMBA取得。 大学時代には交換留学生として、早稲田大学ビジネススクールで学ぶ。東京銀行ロンドン支店P&G勤務後、コンサルティングのBooz Allen & Hamilton社(東京及びサンフランシスコ)のマネージャーを経て独立。
2000年にアイ・モバイル株式会社を創業。

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