基礎編 第7回 “戦略的な値付け”を行うには

達したい目的や得られる体験に対してコストが高すぎると顧客が感じれば、取引は起こらない。一方で価格が低すぎると感じた場合も、品質を疑い、製品やサービスへの期待が低くなり、結局のところ取引が起こらない。これが顧客心理の面白いところだ。価格は顧客にとって品質の目安であり、顧客は価格を通じて企業からのメッセージを受けとっている。企業収益を考えた場合、顧客マインドにおいて適切な価格の幅に入り、なおかつ高めの価格設定をしたいものである。

ネット時代への対応

経営者自身によって決められた価格は、顧客への具体的なメッセージでもある。よって戦略的な値付けも、これまで同様に顧客視点で検討し、顧客マインドに働きかける姿勢が必要となる。 価格に対する顧客マインドは、顧客の購買経験、顧客が信頼する知人、有名人、専門家のコメントなどによって醸成される。まずは、顧客がどのような購買検討プロセスを経て、どのような購買経験をしているのか?また、どのように他人のコメントに出会い、どのようなコメントに影響されるのか?を検討せねばならない。 現代は、購買検討プロセスにおいてインターネットに大きな影響をうける時代となった。楽天やアマゾンでの販売量が増え、百貨店やスーパーマーケットの売上が減るという消費者向け販売のみならず、部品購買や備品購買といった法人間取引においてもインターネット上の商談が増えている。インターネット時代に購買者はどんな経験をしていて、顧客マインドにはどのような影響が出ているのだろうか。 インターネット時代になってできるようになったことは … ⇒買い手にできること=価格比較/逆オークション/無料/サービス/無料お試し ⇒売り手にできること=行動ターゲティング/個別の特典 ⇒双方にできること=オークションなどの交渉/物々交換この結果、次のような顧客マインドが醸成された。  

★複数の取引先(または製品)を比較してから購買決定すべき。  

★欲しいモノや、欲しいサービスは、とりあえず投稿してみる。  

★とりあえず、「無料」で試せるモノや「無料」の付帯サービスを探してみよう。  

★自分にピッタリの方法や品物を推奨してもらえるのはあたり前だ。  

★私だけの特典は受けとっておこう。  

★中古も探してみよう。  

★保有ポイントが使える(増える) 販売者を探してみよう。

「参照価格」に注意せよ

上記でも分かるように、購買検討者は一般的な告知価格をそのまま受け入れず、購買検討プロセスを通じて積極的に製品評価をしている。そして、共感できる取引先を探しているのだ。 購買検討者は、過去の購入体験や公式なコミュニケーション(マスメディアによる広告など)、知人・友人・同僚などからの情報を通じて、購買検討の基準となる 「参照価格」をもっている。この参照価格は、過去に見た価格を正確に覚えているという性質の数字ではなく、心理的・感覚的な数値幅のイメージである。(前出「顧客マインドの幅」に同じ。)この参照価格と提示された価格を比較することから購買の検討がスタートする。参照価格は感情や感覚に左右されやすい。たとえば、高級品ばかり売っている売り場に自社製品を置けば、それだけで顧客マインド内の参照価格が引き上げられる。 また、この参照価格には下限価格がある。納得できる理由が見つからないほど低価格だと、顧客は購買を差し控えてしまう。よって正当な理由によって値下げする場合は、その理由を顧客マインドに訴求せねばならない。「ワケあり**」というネーミングに効果があるのは、このような理由からである。 業界によっては、その業界の常識として価格が不明瞭なことがある。「別途お見積もり」とか「時価」など。こういった業界では、詳細な価格表によって見積過程をガラス張りにすると、競争優位性を確保できることがある。このケースは、値下げによる競争でなく信頼性による競争なので、収益を圧迫することがない。 価格という「数字」を「見た」ときの心理的影響も考慮する。人には数字を左から見る習慣があるため、30,000円は三万円台だが、28,500 円は二万円台という印象になる。また、終わりの数字が端数だと「バーゲン」とか「値引き」という印象を与える。逆にいうと、高品質、高級といったイメージを与えたい企業の場合は端数で終わる価格付けを避けるべきだ。  

価格設定のステップ  

価格設定の第一歩は目的を明確にすることである。たとえば、高品質イメージを植え付けたいのか?シェアーを獲得したいのか?低価格でしっかりしたモノを提供できるという印象を広めたいのか?在庫を処分したいのか?など。 次に需要の判断を行う。当然ながら価格によって需要の水準は異なってくる。ターゲット層が替わってしまうからである。過去のデータを統計分析するのも良いし、テスト販売してみても良い。 コストを把握することも忘れてはならない。さらに、コストの性質も良く理解しておくべきである。固定コスト、変動コスト、ある一定の生産量を超えると劇的に下がるコストなど、いろいろな性質のコストがある。サービスの場合は、ITにより自動化できるプロセスはないか?という検討も必要だ。競合他社については、コストや提示してくるであろう価格の予測、ターゲットや目的の分析をしておく。 最後に価格設定方法について方針を固め、価格を決定する。主な価格設定方法は次のとおり。  

・マークアップ=コストに欲しい利益を上乗せする方法  

・ターゲットリターン=目標とする数量を販売したときの投資収益率を基準にする方法  

・知覚価値=顧客マインド内で知覚されている価値に合わせる方法  

・バリュー価値=高品質製品に低価格を設定し、顧客ロイヤリティーをねらう方法(EDLPなど)  

・現行レート=競合他社の価格に基づく方法  

・オークション=競り上げ、競り下げ、入札などの方法  

実際のビジネスにおいては価格が単一でないことも多い。いろいろな要因により価格を変動させることを価格適合という。以下に価格適合のパターンをご紹介する。 地理的価格設定=国の違いや地域の違いに合わせた価格設定や、流通事情を勘案した価格設定 割引=現金割引、ボリューム割引、機能(チャネル)割引、季節割引など アロウワンス=報奨制度、下取り制度など 販促=特別催事価格、現金リベート、低金利融資、長期支払い、保証・サービス付加など 差別価格=顧客セグメント別(アカデミーパックなど)、形態別(五個入り、十個入りなど)、イメージ別(同じ内容物の容器を変えて、イメージを変えるなど)、チャネル別(自動販売機か高級レストランかなど)、場所別(A席、S席など)、時期別(曜日別価格、月別価格など) 価格設定は、経営に最も直接的な影響を与える行為である。だからこそ経営者自身がコミットし、徹底的に顧客マインドを検討し、顧客の視点で意志決定しなければならない。

[ 戦略経営者(株式会社TKC発行) 2009年7月号記事 ]
執筆:アイ・モバイル株式会社 代表取締役 デービット・リーブレック
【プロフィール】
アメリカ、オレゴン州生まれ。
ジョージタウン大学でMBA取得。 大学時代には交換留学生として、早稲田大学ビジネススクールで学ぶ。東京銀行ロンドン支店P&G勤務後、コンサルティングのBooz Allen & Hamilton社(東京及びサンフランシスコ)のマネージャーを経て独立。
2000年にアイ・モバイル株式会社を創業。

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