基礎編 第5回 顧客マインドを基軸にしよう

ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院のフィリップ・コトラー教授は、業界の市場シェアに応じて競争地位を4種類のポジションに分類した。「リーダー」は最大の市場シェアをもつ企業であり、「チャレンジャー」は市場シェアで2〜3位といった企業だ。リーダーもチャレンジャーも、大規模企業である可能性が高い。フォロワーは文字通りリーダーやチャレンジャーに追随する企業だが、現状維持を望み、波風を立てるつもりがない。ニッチャーとは、リーダーが本気にならない小規模な市場セグメントをターゲットにする企業を言う。

 シェアによるポジショニング

リーダーは業界全体の市場規模を拡大するために新しい顧客を創造し、消費量を増大させるための行動をとる。また、市場シェアを防衛するために品質を上げ、効率的なディーラー・システムを構築し、優れたサービスなどとともにフルライン戦略をとる。チャレンジャーはリーダーができない政策を用いてリーダーを含めた他の企業を攻撃し、シェアを奪う。フォロワーはチャレンジや攻撃ではなく、模倣や追随をする。ニッチャーは賢い絞り込みで高収益を上げることがあるが、市場が安定しないため次々と新たなニッチ市場を探し出す必要がある。図表1はポジションごとに戦略の定石をまとめたものである。中小企業には、ニッチャーとして賢く儲け続けるか、フォロワーとして効率的な経営を目指すという会社が多くなる。ただし、ニッチャーとして絞り込んだ市場の成長性が高かった場合は、当初はニッチ市場内の「ミニ・リーダー」だったとしても、市場の成長とともに本当のリーダーに成長することがある。  

ところで、市場シェアによるポジショニングの議論は、顧客視点ではなく供給者視点による議論になってしまうことが多い。本セミナーにおいて一貫して「顧客視点が最も重要」と主張してき私の立場からすると、ここで紹介した「市場シェアーによるポジショニングと競争戦略の定石」は、単なる基礎的な知識として認識していただけると有り難い。

 顧客心理によるポジショニング

顧客視点による価値ポジショニングとは、企業の提供物または企業そのもののイメージが、顧客マインド内において特定の位置を占めるよう設計する行為である。すなわち顧客視点を意識したポジショニングは、製品に対して行うものではなく顧客マインドに対して行うものなのである。「顧客マインド内における特定の位置」を設計するためには、顧客が製品購買を決定する要因(KeyBuying Factor、略してKBFと称される)を、顧客マインド視点で分析する必要がある。たとえばスポーツクラブの入会意思決定要因は、「価格(会費)」かもしれないし「場所」かもしれない。  

そのほかにも専門性、イベント、設備の快適性…など様々な要因が思い浮かぶ。これらの要因を「顧客マインド視点の言い回し」に変換したのち、最も重要な二つの基準(軸)を選択して、顧客視点によるポジショニング・マップを作成する。たとえばスポーツクラブについて、価格と場所の二つの軸でポジショニングを表現するならば図表2のような考え方ができる。  

「価格」という言葉から「会費が**万円以上とか**万円以下」という基準だけを考えてはならない。顧客マインド視点で基準(軸)をつくるならば、「高級なスポーツクラブか?手軽なスポーツクラブか?」という表現の方が適切なポジショニングにつながる。顧客マインドにおいて金額だけが重要な購買決定要因となるのか?クラブを構成するメンバーの職業や社会的な地位も重要なのか?気が利くコンシェルジュがいつも控えていることはどの程度重要なのか?などを、徹底的に議論する必要性に気づくからである。 「場所」についても同様だ。顧客マインド視点ならば、「平日に気軽に寄れるか?休日に気軽に寄れるか?」など、生活シーンと立地との関係を示す表現を選択すべきである。顧客に共感してもらえるか?を自問しながらポジショニング・マップの基準(軸)を検討していただきたい。

 ポジションを確保する手段

競合と差別化して実際の売上につなげるためには、顧客価値によるポジショニング・マップという「自社が向かうべき方向を示した地図」を描くだけでなく、自社のポジションを確固たるものするための行動をおこさねばならない。ポジションを確固たるものにするための手段は、製品による差別化、スタッフによる差別化、チャネルによる差別化、などに分類できる(図表3)。  

製品による差別化とは、形態/特徴/性能/耐久性/信頼性/修理安易性/デザインといった製品そのものや、注文容易性/配達/取り付け/顧客トレーニング/メンテナンスといったサービスによる差別化のことを言う。 スタッフによる差別化とは、知識や技能/礼儀正しさ/親しみやすさ/一貫した正確さ/迅速な対応/コミュニケーション能力などによる差別化のことを言う。 チャネルによる差別化とは、カバレッジ(カバーしている地域)/専門技術や専門知識/パフォーマンス(業務効率)などによる差別化のことを言う。 差別化手法を変化させる必要性

 差別化手法を変化させる必要性

ところで、市場の成長段階(成熟状態)によって競合状況には変化が起こる。そのため、適切なポジションを確保し続けるためには、差別化手法を市場に合わせて変化させていく必要がある(図表4)。  

生まれたばかりの新しい市場では、当該製品を提供できているのは自社のみ、という状態になり得る。このとき自社は顧客にとって唯一無二の存在であるため、他社と比較する必要はない。自社製品の特徴は顧客にとって重要性が高いか?顧客からみて独自性があるか?顧客に信頼されるか?のみが問われる。  

市場が成長してくると、当然ながら競合が参入してくる。このとき自社は、同じ種類の特徴をもつ競合製品との比較で、製品やスタッフ、チャネルなどによる明らかな優位性を保たねばならない。さらに、市場の成熟に備えるならば、心理的側面を含めたスイッチング(競合への移行)障壁を高めておく必要がある。すでに長く使っている(または継続購入している)ユーザーが「いつもの使い方」「いつもの対応」を気に入っている場合、競合製品が少々優れていてもユーザーは競合に移らない。この段階では劇的なイノベーションを求めるのでなく、定期的に顧客リサーチを行って、製品や業務プロセスを継続的に改善するのがよい。この場合、顧客リサーチはPDCAサイクルの中のP(計画)のためではなく、C(評価)のために実施していると言える。

[ 戦略経営者(株式会社TKC発行) 2009年12月号記事 ]
執筆:アイ・モバイル株式会社 代表取締役 デービット・リーブレック
【プロフィール】
アメリカ、オレゴン州生まれ。
ジョージタウン大学でMBA取得。 大学時代には交換留学生として、早稲田大学ビジネススクールで学ぶ。東京銀行ロンドン支店P&G勤務後、コンサルティングのBooz Allen & Hamilton社(東京及びサンフランシスコ)のマネージャーを経て独立。
2000年にアイ・モバイル株式会社を創業。

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