基礎編 第2回 マーケティングリサーチの重要性

前回は、マーケティングにおける顧客視点の重要性について触れた。さて、御社の経営戦略に顧客視点は十分反映されているだろうか。営業の担当者は「顧客のことは自分達が一番良く知っている」と言う。本当にそうだろうか。もちろん社員が入手した情報を共有する仕組みは大切であるが、顧客が商品やサービスをどう評価しているのかを直接聞いてみるこ とも極めて重要である。特に、深刻な情報は営業担当者に伝わらず「顧客が黙っていなくなってしまう」ことが多いからだ。そのようなことを防止し、客観的な評価を得る手段と して、定期的なマーケティング・リサーチは非常に有効である。特に、深刻な情報は営業担当者に伝わらず「顧客が黙っていなくなってしまう」ことが多いからだ。そのようなことを防止し、客観的な評価を得る手段として、定期的なマーケティング・リサーチは非常に有効である。

 定量調査と定性調査

マーケティング・リサーチは、二十世紀前半、まず米国を中心として利用されはじめ(日本では1950年代から)、心理学、多変量解析などを取り込んだ、広範で体系的なノウハウが蓄積されてきた。  

米国の経済学者フィリップ・コトラーは「マーケティング・リサーチとは、企業が直面する特定の市場状況に関するデータと調査結果の体系的なデザイン、収集、分析、報告であると考える」と著作で述べている。  

マーケティング・リサーチには、定量調査と定性調査の二つのアプローチ方法がある。定量調査は「回答者の○○%が、XXを選んだ」というように、結果を%や平均値などで数値化して分析する調査。紙のアンケートやインターネットのアンケートの大部分が含まれる。定性調査は、例えば何故「○○を購入した」のかを、様々な角度から質問を重ね深く探る質的調査である。行動の背景理解、新しい仮説の発見、新製品のアイディアを得る、定量調査の質問項目の確認などの場合に活用される。  

経験豊かなプロによる調査分析は、心理学的アプローチや各種の解析手法を踏まえていることに特徴がある。顧客の回答(認識)には、経験や事実と感情が混在していることが多く、何が要因となって認識が生まれたのか、または生まれつつあるかを探るには、プロの分析が役立つ。

 中小企業でも活用できる手法

マーケティング・リサーチは、永らく大企業のための手法であった。より市場や顧客のニーズに合った「売れる」商品を作りだすために、プロモーション投資のリスクヘッジのために、多種多様なサービスが提供されてきた。  

マーケティング・リサーチの費用が年間数億円を超える大企業も珍しくはない。しかし、この厳しい経営環境下においてマーケティング・リサーチは中小企業にこそ活用して欲しい手法である。  

ITマーケティング研究所では、TKC全国会の創業・経営革新支援委員会とともに、中小企業が活用しやすいマーケティング・リサーチ手法を研究し、『顧客力診断』を開発した。  

顧客力診断は、商品やサービスに対する顧客の満足要因を調査すると同時に、社内でも「顧客はどの程度満足しているか」などを調査して、顧客と社内のギャップを測る点を大きな特徴としている。  

分析結果から、自社の強みや課題、顧客のニーズを明確化し、顧客視点への「気づき」を促し、今後の経営戦略、行動計画に役立てられる設計になっている。回答者の負担にならないコンパクトなアンケートには「総合満足度」「継続利用意向」「品質満足度」などの基本評価指標が含まれ、業界独自の質問や企業独自の質問も幾つか追加することが可能だ。

 四国シキシマパンの〝気づき?

「顧客力診断」を実際に利用された、株式会社四国シキシマパン様の例を挙げながら、具体的な特徴を説明しよう。  

四国シキシマパンは、敷島製パンの子会社で、四国四県でパン・菓子の製造販売を行っている。これまでに独自調査の実施経験はなく、今回初めて、取引先、消費者および社員に顧客力診断を実施した。  

取引先の回答と四国シキシマパンの管理職とセールス社員の回答(以下「社員」と記載)を比べながら、顧客力診断から発見した「気づき」について述べてみる。グラフ1が示すように、結果的に四国シキシマパンに対する総合満足度は非常に高く、この高い評価は、強い製品力とセールスのきめ細かな対応、販売支援体制に支えられていることが明らかとなった。  

商品の詳細評価を見ると、品質、味、安心できる商品の三項目で、取引先の9割前後が満足と回答している。一方で、商品の「種類の豊富さ」については、満足層が36%に留まった。セールスに対しては、取引先の9割以上が満足と回答し、「連絡の取りやすさ」、「訪問頻度」「問合せや依頼への対応」、「納品スケジュール」などでも9割前後が満足層であった(グラフ2、3)。

 三つの大きな気づき

四国シキシマパンの福元社長は、「プラス面、マイナス面も含めて私どもが感じていることとは違う評価を頂いたのは、有難いこと。全般的に、社員よりお客様の評価が高かったことは新鮮な驚き」とし、三つの大きな気づきを得たと語っている。  

まず、セールスや販売支援体制については、「製パン企業においては、一人のセールスドライバーが、売り場提案をするセールス業務と商品を配達するドライバー業務とを兼務しているのが一般的だが、当社はセールスとドライバーを分け、セールスは売り場提案をすることに集中している。この戦略がお客様に追認された」また、「目先の利益より、安心・安全ということを言い続けてきた。  

乳化剤や添加物の使用を抑えたことが高い評価に繋がったと思う」。商品の種類が少ないという意見については、「実際には300位のアイテムがあり、大きなスーパーでの販売アイテム数は180ほど。取り扱いアイテムをこれ以上増やしても効率が悪いだけ。より売れ筋の商品に絞ってアイテム数を増やすということが大事。また、四国独自の商品を、四国四県で売っていくという地産地消の方向性を考えている」。  

福元社長は、「2008年の9月から四国四県に販売するようになりこれを第二の創業としている。顧客力診断の結果を、今後個々の商品戦略、営業戦略に落とし込んで九月から始まる第二の創業2年目に備えたい」と結んでいる。  

マーケティング・リサーチは、何でも解決できる魔法の手法ではない。しかし、行動計画を伴ったPDCAサイクルの検証に活用すると、経営革新のための強力な味方となる。

[ 戦略経営者(株式会社TKC発行) 2009年7月号記事 ]
執筆:アイ・モバイル株式会社 代表取締役 デービット・リーブレック
【プロフィール】
アメリカ、オレゴン州生まれ。
ジョージタウン大学でMBA取得。 大学時代には交換留学生として、早稲田大学ビジネススクールで学ぶ。東京銀行ロンドン支店P&G勤務後、コンサルティングのBooz Allen & Hamilton社(東京及びサンフランシスコ)のマネージャーを経て独立。
2000年にアイ・モバイル株式会社を創業。

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