基礎編 第1回 マーケティングの変遷と顧客視点

2007年に始まったサブプライムローン問題に端を発し、2008年9月に米国下院が緊急経済安定化法案を一旦否決したことを機に世界中の株式市場の暴落が始まった。以降、いたるところで「百年に一度の経済危機」という言葉が聞かれるようになった。この厳しい経済情勢下で中小企業が売上の維持・拡大をするためには、変化する市場環境に身を委ねるのではなく、自ら経営革新のための行動をとっていく必要 がある。 本連載「行動する経営者のためのマーケティング基礎講座(全10回)」は、身近な事例を用いたマーケティングの体系的な解説を通じて、中小企業経営者の皆 さんに「明日の打ち手」となるヒントをお届けしたいと考えている。是非とも実際の行動計画策定に役立てていただきたい。

 マーケティングって何?

マーケティングって何なのだろう?この問いに一言でズバッと答えられる人は少ない。目的は明らかに「売上増(=利益増)」「顧客増(顧客維持を含む)」であり、よく考えると、これは「経営」の根幹でもある。  

近年、ネットマーケティングだの、エモーショナルマーケティングだの、たくさんの「即効性がある(といわれる)テクニック論」が流行ってきた。しかしここ では、改めて原理原則から体系的にマーケティングを述べてみたい。原理原則を踏まえた上でのテクニック論でなければ継続性が期待できないからである。  

2004年、全米マーケティング協会はマーケティングを次のように定義した。「マーケティングは組織的な活動であり、顧客に対し価値を創造し、価値につい てコミュニケーシヨンを行い、価値を届けるための一連のプロセスであり、さらにまた組織及び組織のステークホルダーに恩恵をもたらす方法で、顧客関係を管 理(マネジメント)するための一連のプロセスである」。  

簡単に言うと「顧客のために価値を生み、届ける活動のすべて」ということだ。経営活動においてマーケティングは非常に広範囲に及ぶ。この広範囲に及ぶ活動を「価値の発見」「価値の選択」「価値の提供」「価値の伝達」というプロセス に分けて次回以降で順次解説する。 ちなみに、1965年、1985年にも全米マーケティング協会はマーケティングを定義しており、その内容は次の通りである。1965年「財(商品) とサービスの流れを生産者から最終ユーザーに方向付ける全ビジネス活動」、1985年「個人や組織の目標を満足させる交換を創造するための、アイデア・製 品・サービスのコンセプト、価格、プロモーション、流通を計画し、実行するプロセスである」。  

1960年代は日本ではいわゆる「高度成長期」にあたり、耐久消費財(白物家電、三種の神器)などの消費が右肩上がりで伸びた時代である。最終ユーザーは 「物」が欲しくてたまらない状況で、経営者は生産者目線ですべてを考えていても成長できた時代だった。  

1980年代はバブル経済などに見られるように消費財ではない価値(金融や不動産、サービス)が急速に伸び、顧客サービスが重視し始められた時代 だった。この時代背景に応ずるようにマーケティングの定義も生産者視点からユーザー(顧客)と生産者が対等な視点、そして現在の顧客価値重視の視点へと変 わっていった。

 「顧客視点」の大切さ

企業が顧客価値を高め、市場で目標を達成するためのマーケティング活動は、おびただしい種類の要素から成り立っている。この、おびただしい要素の組み合わ せによるマーケティング活動は「マーケティング・ミックス」と呼ばれ、1961年にアメリカのマーケティング学者ジェローム・マッカーシーは、製品 (Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)の四つに分類した(マーケティングの4P)。  

この4Pは、顧客に影響を与えられるマーケティング要素を売り手の視点で考えたものである。  

一方前段でもふれたように、時代とともにマーケティングの定義は売り手(生産者)視点から顧客(ユーザー)視点に変化していった。  

これに呼応するように、アメリカの経済学者(マスコミ学・広告学)のロバート・ラウターボーンが1990年、「売り手は4Pを設定する前に、まず顧 客の視点での4Cの検討から入るべきだ」と主張し、「4C」という分類を提唱した。4Cとは、顧客ソリューション(Customer Solution)、顧客コスト(Customer Cost)、利便性(Convenience)、コミュニケーション(Communication)のことを言い、それぞれ4Pと同じ趣旨の分類を顧客視点で言い表している。  

たとえば、「冷蔵庫」という製品は耐久消費財であり、食品を冷やすために使用する設備だが、いつでも冷えた食品を食べたい(または飲みたい)という 欲求にソリューションを提供しているサービス、という視点では自動販売機やコンビニエンスストアも同じ顧客ソリューションを提供しているといえる。  

スターバックスで飲むカフェラテの価格320円はコーヒー飲料代金ではなく、くつろいだ時間の演出代金かもしれない。  

流通は製品単位(工場単位)で発送したほうが生産者にとっては効率的だが、受け取る側にとっては文房具もミネラルウォーターも一緒に受け取りたい。 だから、アスクルは物流センターを自前で整備するしコンビニは競合メーカーや異業種メーカー同士の共同配送を実施している。  

また、メーカーが発信する「広告」という製品説明はユーザーに見られなくなり、一方でユーザーは「使用感、活用法、感想」などのクチコミ情報を得よ うとしている。

 誰にどんな価値を提供するのか

どんなに高品質な製品や高度なサービスを提供したとしても、「(顧客視点の)価値」を創造し、伝達し、提供できなければ売り上げにはつながらない。 すなわち顧客が価値を感じなければ、それに見合った対価を支払うことはなくなってしまう。  

この価値創造から価値提供までの連鎖と企業活動の関係を表したのが図3である。

この一連の企業活動のすべてにおいて、一か所でも「(顧客視点の)価値」が欠落してしまうと、そこがボトルネックになって顧客に「価値」が伝わらな い。  

すなわち対価(売上)がいただけない。よってマーケティングで最初にすべき、最も大切なことは「顧客の視点」を持つことである。

 次にすべきことは、「自社は、誰に対して、どのような価値を提供することで対価をいただくのか?」を明確にし、全社で共有することだ。この最初にす べきことを軽視すると、その後どんなに高度なフレームワークを用いてマーケティング戦略を練っても、結局売り上げにはつながらない。 

「顧客の視点」を知らず知らずのうちに軽視してしまっている経営者はマーケティング戦略を売り上げにつなげられないことが多いため、「マーケティン グなんて横文字は机上の理屈であり、中小企業の現場では役に立たない」と感じてしまうのである。

[ 戦略経営者(株式会社TKC発行) 2009年7月号記事 ]
執筆:アイ・モバイル株式会社 代表取締役 デービット・リーブレック
【プロフィール】
アメリカ、オレゴン州生まれ。
ジョージタウン大学でMBA取得。 大学時代には交換留学生として、早稲田大学ビジネススクールで学ぶ。東京銀行ロンドン支店P&G勤務後、コンサルティングのBooz Allen & Hamilton社(東京及びサンフランシスコ)のマネージャーを経て独立。
2000年にアイ・モバイル株式会社を創業。

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