【世界のITイノベーション第9回】選挙とIT〜ビッグ・データ活用の時代へ〜

ネイト・シルバー氏という方をご存知でしょうか。シルバー氏は、2008年のアメリカ大統領選挙の全50州における投票結果を49州で的中させたことで注目されました。昨年の大統領選挙でも旧来の政治評論家が混戦を予想する中、選挙戦当初からオバマ氏が有利とし、投票前日の2012年11月5日には「オバマ氏が90・9%の確率で勝利」と予測、最終的に全米50州の州ごとの勝敗を完璧に的中させました。  

シルバー氏は選挙区のさまざまな情報(人種、宗教など)、世論調査の結果といった関連データを収集、それらのデータを分析する確率論的選挙予測モデルを確立させました。  

これはまさに、以前にこの連載でも取り上げた「ビッグ・データ」を駆使した手法です。

データ・サイエンティストとは

昨年末のアメリカ大統領選挙において、オバマ氏の選挙対策本部は地元のシカゴに置かれました。その中に「The Cave(洞窟)」と呼ばれる部屋があったそうです。そこではITチームが各種データを収集・分析し、効率良く効果的な選挙手法を研究・実行していたようです。これらの高度なデータ分析にはデータ・サイエンティストと呼ばれる人々が活躍し、オバマ氏を勝利に導きました。その際、まず何に手をつけたかというと、データの統合です。2008年の選挙戦では投票を呼びかけるために使うリストや資金提供をお願いするために使うリストなど、複数のデータが混在していたのだとか。再選に向けてその「データ」を有効活用するため、各種データをひとつにまとめたそうですが、その作業には全米のデータということもあり18カ月間かかったとのことです。  


彼らは各州の有権者データを分析、趣味・嗜し好こう・動向を把握して、どんなセレブを応援に起用すればいいかを導き出し、選挙資金集めのパーティーに西海岸ではハリウッド俳優のジョージ・クルーニー氏、東海岸ではサラ・ジェシカ・パーカー氏を動員するなど、最大限の効果が期待できる手を打ちました。また、激戦が予想される州ではさまざまなシナリオを想定して毎晩6万6000回も結果をシミュレーションにかけていたそうです。 データ・サイエンティストについては、ハーバード・ビジネス・レビュー誌が2012年10月に「21世紀の最もセクシーな職業」という記事を掲載し(Data Scientist : TheSexiest Job of the 21st Century)、今後が有望な市場であるとしています。2008年の選挙では「ソーシャルメディア」を活用した有権者との交流が注目されましたが、2012年の選挙は「ビッグ・データ」が選挙の鍵だったようです。 

衆院総選挙の興味深いデータ

昨年12月には、日本でも第46回衆議院議員選挙が行われました。選挙期間中、多くの人々が「選挙」に関すること(政党、候補者、政策など)を検索したり、SNSで発信しました。 インターネットサービスでお馴染みのヤフー株式会社では、選挙結果と「Yahoo!検索」や「Yahoo!検索(リアルタイム)」などのビッグ・データを比較・分析・調査した結果をレポートしています。「政党名の検索数は比例区の得票と高い相関がある」、「政党名のSNS投稿数は小選挙区の得票数と非常に高い相関がある」、「注目度が非常に高い候補者は大きく勝利または僅差で負ける傾向」など、興味深いデータ、面白いデータが集められています。 『衆議院議員選挙とYahoo!検索の驚くべき関係── Yahoo! ビッグデータ〟』というサイトがあります。ここでは二つのPDFファイルがダウンロードできるようになっていますので、ぜひご覧ください。


インターネット選挙解禁へ

ご存知のように日本では選挙におけるインターネット活用は禁止されています。ホームページを持ち、メールマガジンを発行し、ツイッターやフェイスブックを活用している政治家も多いようですが、選挙期間中は何も更新できないという状況です。  


しかし、今国会で公職選挙法が改正され、この夏に行われる参議院選挙からネットの利用が解禁される見込みで、選挙期間中の情報発信ができるようになるようです。政党や候補者が電子メールやフェイスブック、ツイッターと言ったSNSで有権者にアピールすることに加え、私たち有権者が特定候補への投票を呼びかけることも解禁されそうです。解禁に伴って、セキュリティーに配慮した堅牢なシステムの整備も求められるし、SNSへの投稿も考えなければなりません。選挙に立候補するにはITへの理解や知識も必要な時代になりそうです。 従来通りの選挙活動、つまり選挙区での緊密なリレーションも重要ですが、日本でビッグ・データやソーシャルメディアを活用した選挙戦が繰り広げられるのも、そう遠い未来ではないでしょう。  

ネットやITの活用が特に遅れていた政治や選挙でも、本格的に利用され始める時代です。中小企業経営者の方々も、世の中のIT事情にアンテナを張り、必要なものや実現できそうなものを取り入れることが重要でしょう。この連載がその一助になれば幸いです。  

この記事への感想や疑問、今後興味のあることなどがありましたら、ぜひお知らせください。  

*この記事は、株式会社TKCが発行する雑誌「戦略経営者」2013年3月号の経営スクランブル(戦経セミナー)に掲載されています。


last update:3月11日

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