【世界のITイノベーション第8回】パーソナルブランディングの必要性

商品やサービスのように、人にもブランドの概念をあてはめ、他人とは違う自分を効果的に表現することを「パーソナルブランディング」と言います。 このコラムの読者は、中小企業経営者や幹部が多く、ご自身の個性が会社のイメージに強く影響していることでしょう。社長の能力や人柄のおかげで営業が実ったり、入社を決める人がいたり、ということもあるはず。経営者のブランドを力として会社の認知度向上やイメージアップをはかり、新たなビジネスの機会を得るには、どうすればよいのでしょうか。

経営者が使うSNS 

個人でも情報発信が容易にできるようになった現在、経営者がどの程度SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用しているか、見てみましょう。昨年5月の調査では、米国の売上高上位企業「フォーチュン500」に入るCEO(最高経営責任者)のうち、ツイッター利用者は3・8%、フェイスブックは7・6%で、一般の平均利用より低い結果でした(※1)。 しかし、ビジネス用のSNSであるLinkedIn(リンクトイン)の利用は26%と一般より高く、経営者間での交流は活発です。  

リンクトインは日本ではまだあまり普及していないだけに、経営者として今から活用していくと、他者に先んじることができそうです。 またIBMが、昨年5月に発表した1709人の経営者調査によると、「現時点でソーシャル・メディアが重要な顧客接点である」と回答した割合は16%ですが、「3年から5年後には重要な顧客接点になる」の回答は57%あり、重要性が大いに認識されています(※2)。  

今でも、積極的にSNSを活用している経営者もいます。自己紹介で「ファミリーマンであり、デルの創業者」と記載しているマイケル・デル氏はツイッターで活発に発言をしています。この「ファミリー」とは、家族のことだけではなく、デル全体のことを意味しているようで、買収した会社を「デルファミリーにようこそ」と紹介することもあります。会社の社会貢献事業などの紹介もあり、温かなイメージをかもし出しています。

 影響力を数値で測る

個人の情報発信がどの程度の力となるのか、ソーシャルメディアを使って測定するツールとしては、Klout(クラウト)があります。ツイッターや、フェイスブックを通じて、どの程度他者から反応を得て、アクションを起こすことができたか、その反応を元にスコアを出す仕組みです。平均値は40ですが、マイケル・デル氏は82です。 昨年7月、キャセイ・パシフィック航空が、クラウトのスコアが40以上あればサンフランシスコ空港のVIPラウンジが無料になるというキャンペーンを行い、話題になりました。影響力の高い人たちが、このキャンペーンやラウンジを告知すれば広がりも早いので、うまいやり方です。 クラウトでは、デル氏のスコアやそのフォロワーのスコアも表示されますが、いずれも高く影響力のあるネットワークを持っていることがわかります。  

日本の経営者の中では、ソフトバンクの孫正義氏(クラウトスコア77)や楽天の三木谷浩史氏(同67)が有名です。2人とも創業社長で、積極的にメディアに登場し、会社のイメージを体現しています。 中小企業の社長も個性的な方が多く、経営をする中で情報も豊富に得て、言いたいこともたくさんあるでしょう。自分はどのように見られたいか、誰に受け入れられたいか、自社の商品のブランドを考えるのと同じように整理して発言すると、とても魅力的なはずです。特に飲食業や小売店など、ファン形成が集客につながるような業界は効果も高いものです。弊社の昨年の調査では、飲食・宿泊業のフェイスブック利用は18%(全体平均は8%)、ツイッター10%(平均5%)で、他の業界より活用されていました。

発言をするときに重要なことは、常に読者を意識することです。人気のある社長のSNSには、自社の宣伝だけでなく、読者にとって役に立つ情報が盛り込まれています。その業界で仕事をしているからこそ得られる最新情報、役立つ知恵などをオープンに発信していくと、反応も得られ、やる気が出ます。業界のプロとしての信頼性や知名度が得られれば、営業や従業員採用にもつながるでしょう。

大学生もブランディング

厳しい就職戦線が続く中、新卒の大学生を対象としたOfferBox(オファーボックス) というサービスが昨年にオープンしました。大学生が企業にエントリーをして選考に進むという通常の流れと逆に、企業がこれと思う学生にオファーを出すというもので、ヘッドハンティングの大学生版です。学生は、自分を表す写真やエピソードを詳しく登録します。買い手市場の就職活動ですが、企業が望む人材が必ずしも応募するとは限りません。サービスを運営する株式会社アイプラグ(大阪市)の中野智哉社長によると、「たとえば製薬企業には、薬学部出身の学生が数多く応募してきます。しかし、海外に営業展開するために適当な人材の応募はないことも。そんなとき、特殊な国へ留学や旅行をしている経験がある、ガッツが感じられる学生には、オファーを出したいものなのです」。すでに1650名の大学生が登録し、パーソナルブランドを表現しています。  

グローバルに競争が進み、商品やサービスの差別化がますます難しくなるこれからの時代、ひとつしかない「人」のブランディングがより重要になるでしょう。中小企業だからこそ、学生だからこそ、自分のブランドを明確にし、リスクを恐れず情報発信をすべきではないでしょうか。ITを活用すれば、今まで考えられなかったような広い世界に自分を伝え、チャンスをつかむことができるかもしれません。

参考資料  

※1 2012 CEO.com Social CEO Report  

※2 IBM Global CEO Study 2012 この記事への感想や疑問、今後興味のあることなどがありましたら、ぜひお知らせください。  

*この記事は、株式会社TKCが発行する雑誌「戦略経営者」2013年2月号の経営スクランブル(戦経セミナー)に掲載されています。

西山 裕子(にしやま ひろこ)
アイ・モバイル株式会社 マーケティングPRプロデューサー

大阪大学、同志社大学大学院ビジネス研究科卒業。経営学修士。 プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク (現P&Gジャパン)でのマーケティングや市場調査を経て、 アイ・モバイル社の創業時より参加。現在は、マーケティングや 新製品のプレスリリースなどを担当

last update:2月4日

前の記事へ 次の記事へ

株式会社TKC発行のビジネス情報誌「戦略経営者」(2月号)に掲載された連載記事を掲載しております。