【世界のITイノベーション第7回】ブランドの威力

「ブランド」という言葉の意味をご存じでしょうか。アメリカマーケティング協会*では、「売り手の財やサービスを、他の売り手のものと異なると識別するための名前、用語、デザイン、シンボル及びその他の特徴」と定義しています。もともとは、家畜の所有者を示す焼印に由来するそうで、他と見分けがつくことがポイントです。  

高級ブランドだけが、ブランドではありません。世界最大のブランドコンサルティング会社インターブランド社は、企業のブランド価値を測定して毎年発表していますが、2012年のランキング1位はコカ・コーラでした。一本120円のコカ・コーラは、すぐにそれとわかる識別力、知名度、デザイン、イメージなど高いブランド力を持っているのです。

他と異なる強みをもつ

ブランド力は、お金に換算もされます。2012年2月、アメリカの食品大手ケロッグが、日用品大手のP&Gからポテトチップスの「プリングルズ」を約2100億円で買収しました。  

消費者にとって、プリングルズをどの会社が販売しているかは、たいして重要ではありません。しかしこの商品のイメージ、味やパッケージ、食べた時の気分などのトータルなブランド力が、新たに作り出すのが困難な価値として、これだけの値段がついたのです。 もちろん中小企業にとってもブランドは大切です。むしろ、価格競争で苦戦しがちな中小企業にとっては、製品の付加価値であるブランド力を高めることは、より重要でしょう。中小企業を対象にした調査では、約4割の企業が自社ブランドを持っていました。また、企業規模が大きくなるほど自社ブランドを持つ割合は大きいという結果もみられました。自社ブランドの役割は「品質を保証し、安心を与える」「他社の商品とわかりやすく選別させる」「企業または商品の知名度を上げる」などが多く挙がりました

自社ブランドを持つから企業が大きくなるのか、大きいから自社ブランドを持てるのかは、鶏が先か卵が先かで、明確ではありません。しかし、これまで数々の企業と取り引きしてきた経験から言うと、やはり強いブランドを持ち、他と異なる何らかの強みをもった会社は成長も著しく、安定した強さを持っているようです。

 ブランドのペルソナ化

では、具体的に他社と差別化できるブランド力をつけるにはどうすればよいでしょうか。 重要なのは、製品・サービスの立ち位置を明確にすること、誰を対象とした商品なのかを明らかにして、その人たちに愛されるものに育てることでしょう。  

一つの方法として、自社のブランドを人間として表す(ペルソナ化する)方法があります。 これは大企業においても商品のポジショニングに使われる手法で、その商品を象徴する架空の人物像を設定し、その人物がどんな性格か、どんな好みや癖があるのかを考えていくことです。 また、「○○のような人には好かれない」「○○の場合には使われない」と、ターゲットとしない層をはっきりすることも有効な方法です。付き合いたくない顧客、関わりたくない客層を明らかにすると、自然と自社の目指すものも絞られて、ファン層の明確化にもなり、社長や社員の働く喜びにもつながります。

ターゲットと用途を明確に

京都の有限会社パソクイックが運営する「綾ゴルフ」は、株式会社ルーツゴルフ製品のみを扱うインターネットの専門店です。大手ゴルフクラブメーカーは、有名トーナメントプロと契約し、コマーシャルを流し、若いイメージを打ち出します。しかし、ルーツゴルフの商品は、50代以上のアマチュアゴルファーを対象とした、「飛ぶ」ことに集中したクラブです。市場シェアは2%ほどのニッチな商品ですが、飛距離に特化した高級クラブであり、ネットショップでは、その飛ぶ秘密や歴史について詳しく述べています。体力に自信がなくなってくるシニア世代は、ゴルフの飛距離が落ちがちなので、それらの人達に役立つ商品を提供しています。  

社長の平田清久氏によると、対象とする層が使いやすいよう、様々な工夫をしているようです。インターネットショップですが、ネットでの注文に抵抗を感じるユーザーも多いため、電話やファックスでの注文も受け付けています。電話での注文は全体の3割、ファックスは1割に達するそうです。また、商品を説明する字は大きく、飛距離を見せる動画も掲載され、わかりやすくなっています。一本のクラブの購入をとっかかりに、その品質とショップの対応の良さに満足され、半年以内にフルセットをそろえる人も多いそうです。他のブランドを扱わず、対象者も限られているショップですが、そのためにとてもシンプルでわかりやすいメッセージを打ち出すことに成功しています。リピーターも多く、売上減に苦しむネットショップが多い中、右肩上がりの実績を上げているそうです。  

自社の持つ商品やサービスをもう一歩強化するために、ブランド力を上げる施策を考えてみられてはいかがでしょうか。  

この記事への感想や疑問、今後興味のあることなどがありましたら、ぜひお知らせください。  

*この記事は、株式会社TKCが発行する雑誌「戦略経営者」2012年8月号の経営スクランブル(戦経セミナー)に掲載されています。

西山 裕子(にしやま ひろこ)
アイ・モバイル株式会社 マーケティングPRプロデューサー

大阪大学、同志社大学大学院ビジネス研究科卒業。経営学修士。 プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク (現P&Gジャパン)でのマーケティングや市場調査を経て、 アイ・モバイル社の創業時より参加。現在は、マーケティングや 新製品のプレスリリースなどを担当

last update:12月27日

前の記事へ 次の記事へ

株式会社TKC発行のビジネス情報誌「戦略経営者」(8月号)に掲載された連載記事を掲載しております。