【世界のITイノベーション第6回】滅びゆくパソコンの「次」は?

英語には「The king is dead, long live the king」という表現があります。 「王は死んだ。新王、万歳」と言う意味です。

 PCは「箱」にすぎない

スマートフォンやタブレット端末がここのところ急に人気となり、旧来のパソコンの代わりに使われるようになってきました。そこで初めて、パソコンとはデータとソフトが入った箱にすぎない、ということが認識されてきました。  

デスクトップかラップトップか、マックかウインドウズかなど、どうでもいいことで、パソコンを使う大きな理由はデータを持ち運び、ソフトで操作ができる一番安い方法だったからでしょう。仕事には最適であり、もしパソコンが使えなくなったら、業務に支障をきたす方は多いはずです。しかし、パソコンには次のような弱みもあります。  

 ・パソコン本体の箱の中にデータの貯蔵庫を作ってしまう。  

 ・データやファイルを共有するのに、労力が必要。  

 ・データやソフトウエアが物理的にパソコンの中に入っているので、常時持ち歩かねばならない。  

 ・システムの更新やセキュリティーの保持に多大な努力を必要とする。  

 ・壊れやすく、古くなりやすい。  

 ・機械そのものがつぶれたり、なくしてしまったら悲劇。  

こういった弱みがあっても、パソコンは「自由」を手にする道具でもあります。パソコンが登場して、われわれの生活は大きく変わりました。仕事や遊びに大いに活用できるので、多少の不便はがまんしてでも皆使っていたのでしょう。  

今、従来型パソコンは滅びつつあります。ただ、そのペースはゆっくりとしており、5年、10年、あるいは15年後のことかもしれません。パソコンという箱(電子部品や半導体チップでできていて、専用ソフトウエアやデータを収めるローカルハードドライブを搭載した物)を持つ時代は、終わろうとしているのです。  

では、今後パソコンはどうなっていくのでしょうか?

 まずはクラウドとPCの併用

すでに少しずつ変化が見られます。まずは、ハイブリッドモデルへの移行です。ソフトウエアやデータはパソコンの箱の中にありつつ、個人のあるいは公共の、クラウドサービスを並行して利用するものです。パソコンと他の機器を同時に使うこともあるでしょう。 ハイブリッドモデルの良い例として、VoIPプログラムを使ったものが挙げられます。スカイプ、Gメールやフェイスブックのようなソーシャルメディア、アメリカで人気のレストラン予約システムのオープンテーブル、営業管理のCRMであるセールスフォースなどが代表的な例です。こういったものは、ウェブとソフト双方に存在し、パソコン上でデータが処理されるようになっています。今、私は3対7の割合で、ウェブサービスとパソコン内のソフトを使っていますが、5年以内に、7対3でウェブの利用が増えそうです。

すべてはクラウドのなかに

長期的には、誰でも“バーチャルコンピューター”を持てる時代が来るでしょう。ログインしてアプリケーションソフトや必要なデータにアクセスし、その中がどういう仕組みになっているかなど、気にせず使っていけます。LANに接続してインターネットにアクセスできれば、モニターだけでも十分に利用できるでしょう。ビジネスで使用するアプリケーションソフトは、ほぼすべて、クラウドベースになるでしょう。現在、“クラウド”というと誰でも使えるオープンなものを思い浮かべる人が多く、セキュリティーを気にする人もいます。しかし、“プライベートクラウド”が登場し、各企業個別のニーズに合わせた、高いセキュリティーが実現できています。

 データとソフトさえあれば

人々が望むのは、いつでもどこでも、欲しいデータに安全に、かつ、安定してアクセスできるようになることでしょう。データネットワークやクラウド、そしてシンクライアントの性能が高まり、丈夫になり柔軟性も高まれば、ビジネスでも利用され、ハードウエア購入に伴うコストも軽減されます。  

このような変化は中小企業にとって、どんな意味があるのでしょうか?新しいモデルは、ITにかかるインフラや維持コストを変えます。ソフトウエアはサービスに変わり、定期購入するか利用に応じた支払い方法となるでしょう。Gメールやグーグルドキュメント、オフィス365が良い例です。ITは運用だけがメーンとなり初期投資コストが不要となるでしょう。 

10人の社員がいる中小企業は、今までパソコン10台、マイクロソフトのオフィス10個、セキュリティーソフト10個を購入して、それぞれ設定しなければなりませんでした。しかし、今後は、パソコンもバーチャルとなり、ソフトもセキュリティーもクラウド上で使うとすれば、10人の社員はネットワークに接続して、各自の持つ機器でアクセスするだけですむのです。その機器も、今存在するものとは異なる、最低限のキーボードとモニターを持つシンプルな機器かもしれません。このような流れは、データ管理やコンプライアンス上、大きな利点があり、中小企業の力となるでしょう  

この記事への感想や疑問、今後興味のあることなどがありましたら、ぜひお知らせください。  

*この記事は、株式会社TKCが発行する雑誌「戦略経営者」2012年11月号の経営スクランブル(戦経セミナー)に掲載されています。

オリバー・C・チャブ
アイ・モバイル株式会社 取締役
 

アメリカニューヨーク州生まれ。スタンフォード大学MBA取得。
日商岩井で東京都都市開発プロジェクトを行い、日本の環境庁で政策提案を行うなど、日本で幅広い経験を持つ。
数々の会社を立ち上げ、アメリカのパートナーにアドバイスを提供する。サンフランシスコ在住。

last update:12月4日

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株式会社TKC発行のビジネス情報誌「戦略経営者」(11月号)に掲載された連載記事を掲載しております。