【世界のITイノベーション第4回】「データ」でビジネスを革新する

Data is the new oil。  

近年アメリカを中心に世界で流行しつつある言葉です。これまで経済を牽引してきた石油のように、21世紀においては、データが価値を生み出す源泉になるとして、注目されています。  

今や、インターネット上には計り知れない量のデータがあふれ、日々増え続けています。また、技術の進歩により、顧客や取引に関するデータを大量に蓄積・処理できるようになりました。  

これらの膨大なデータ(いわゆるビッグデータ)を単なるデータに終わらせず、資源として経営戦略やマーケティングに活かしていくことがこれからのビジネスにおいて重要な鍵となるでしょう。

 ビッグデータの活用例

ビッグデータ活用における先駆者と言えば、AmazonやGoogleといった大手のWebサービス会社です。Amazonは、商品の閲覧・購入履歴から、そのユーザーが他に興味を持ちそうな商品を分析し、「おすすめ商品」として提示することで、販売促進を行っています。ついつい「おすすめ商品」に手を伸ばしてしまった方もいるのではないでしょうか。  

Googleは、誰が、いつ、何を、どこで検索したか、どんなサイトを訪問したかという履歴情報を集約し、その結果から個々のユーザーの性別や年齢、居住地、趣味嗜好まで予測しています。そして、ユーザーごとに関連性の高い広告を表示することで、より広告効果を高めています。インターネットを利用されている方は、Googleの広告表示設定 から、あなたの履歴を基にGoogleが予測した年齢・性別、関心のあるカテゴリを確認することができます。Googleの分析精度の高さに驚かれることでしょう。  

また、ビッグデータを活用しているのは、Web関連の会社だけではありません。アメリカの大手冷凍食品会社シュワン・フード社(Schwan Food Co.)が行っている宅配事業では、6000人の販売員が、国内の約300万人の顧客に直接商品を届けています。  

同社は、もともと、個々の顧客の過去6週間分の注文履歴を見ながら、販売員が商品を薦める形でデータを活用していました。しかし、低迷している業績を上げるには、データを更にダイナミックに活用することが必須と考え、「おすすめ」システムを一新したのです。このシステムでは、全ての顧客の注文履歴が常時リアルタイムで分析されています。注文パターンや好みがよく似た顧客を抽出し、傾向を分析することで、今後の顧客の行動予測に活かし、さらにその顧客が好みそうなお薦め商品を自動的に導き出しているのです。また同時に、いつも買っていたのに最近購入が減っている商品カテゴリーを特定し、割引やクーポンを提供することも可能です。現在、同社のデータベースからは、日々120万以上の「おすすめ商品」情報が販売員の携帯デバイスに直接送り出されています。こうした取り組みの結果、注文数の増加や顧客の離脱防止につながり、同社の売上は3〜4%アップしました。  

これらはいずれも、顧客に関する膨大なデータを収集・分析し、販売促進に活用している事例です。

データを眠らせずに活かす

同じことを中小企業で実現するのは非常に難しいと思われるかもしれません。確かにビッグデータをリアルタイムで分析するようなシステムを構築するには膨大なコストがかかります。  

しかし、よく社内を見渡せば、すでに何らかの顧客情報、データが蓄積されているはずです。一時点のデータであっても、ビジネスに活かすことは十分可能です。どんな顧客が、いつ、何を、いくらで購入したか、アンケートにどう答えたか、どんな問い合わせやクレームがあったか、ホームページやECサイトでどのような行動を取っているか。これらのデータは全て会社にとって貴重な財産です。重要なのは、この財産を眠らせずに、活かすことです。  

例えば、POSやECサイトの購買データは、単に売れ筋商品を判断したり、在庫管理をするためだけのものではありません。取引ごとの購入商品・商品点数を分析すれば、よく一緒に購入されている商品が分かります。「紙おむつを買う人はビールを一緒に買うことが多い」というアメリカのスーパーマーケットでの有名な事例がありますが、これはPOSデータの分析によって得られた結果です。併売率の高い商品が分かれば、近くの棚に陳列したり、セット販売したりすることで、さらなる購入の増加が見込めます。ECサイトであれば、「こちらの商品も一緒にいかがですか?」などお薦めするのも良いでしょう。  

また、会員証やポイントカードの顧客情報と紐付けることで、データの利用価値はさらに高まります。

うまく使えば大手にも勝てる

国内でも、ポイントカードの顧客情報と購買データをフル活用し、驚くべき成果を上げている地域密着型のスーパーがあります。同社は、購買金額上位4割の顧客が全体の売上の8割以上を生み出していることを突き止め、上位顧客に重点を置いた取り組みを行っています。まず、全体で見れば死に筋商品でも、上位顧客が買っているものは切らさない。そうすることで上位顧客の流出を防いでいます。さらに、上位顧客のみを対象とした特別な優待や販促にも力を入れています。上位顧客に対し通常の数倍のポイントを付与する告知を行ったところ、売上が1割伸びたという実績もあります。全顧客に同じキャンペーンを実施するよりも、はるかに費用対効果が高いのではないでしょうか。  

また、商品ごとに購入量の多いヘビーユーザーを特定し、彼らに特化した販促活動を行うことでも成果を出しています。マヨネーズの購入額上位3割のヘビーユーザーに限定したDMを送った結果、マヨネーズの売上が2桁増になったそうです。  

購買データから各顧客の特性を分析し、それぞれに合ったプロモーションやサービスを行うことで、同社は大手スーパーとの激しい競争の中、増収増益を続けています。  

このようにデータの活用方法は無数にあり、活用次第では競争力の源泉にもなり得ます。冒頭で述べたビッグデータを中小企業で手軽に扱えるようになるのはもう少し先かもしれません。 しかし、来るべきビッグデータ時代に備えて、まずはデータを蓄積することからはじめ、データを活用してビジネスを革新していくという企業風土を作り上げていくことが重要です。  

この記事への感想や疑問、今後興味のあることなどがありましたら、ぜひお知らせください。  

*この記事は、株式会社TKCが発行する雑誌「戦略経営者」2012年9月号の経営スクランブル(戦経セミナー)に掲載されています。

川上 陽子
アイ・モバイル株式会社 ITマーケティング研究所

神戸大学経済学部卒業。マーケティングリサーチに10年間携わり、 大手外食チェーン、ITベンダーなど様々な企業の調査を担当。 現在は、WEBマーケティングの手法・事例を研究し、ビジネス誌、 メルマガ、コラムなどの執筆も行う。

last update:10月9日

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株式会社TKC発行のビジネス情報誌「戦略経営者」(9月号)に掲載された連載記事を掲載しております。