【世界のITイノベーション第1回】3D印刷~スピードとデザインで安さに勝つ~

「海外ビジネス最新アイデア」10回シリーズに続き、今月から新連載が始まります。シリコンバレーを中心とした私からの最新ビジネス情報に加え、当社のITマーケティング研究所スタッフも、日本を含む世界のビジネスの動向について、ご紹介していく予定です  

さて、前回シリーズ最終回でも扱った、画像のSNSと呼ばれる「ピンタレスト(Pinterest)」社は、やはりホットな会社だったようです。記事が出た後の5月17日、日本の楽天が投資を発表して話題になりました。今回は、一企業の話ではなく、最近アメリカで大変注目されている3Dの立体印刷技術についてご紹介しましょう。この技術自体は25年前からあるものですが、最近になり実用化が見えてきて、ホットな分野となっています。

 火星に行くなら持っていきたい

もしも将来、火星に行くなら、重い荷物は持たずに、3Dプリンターとデータだけ運べば十分かもしれません。チタン製のレンチ工具が必要になったら印刷、エアロックの扉が必要になったらまた印刷……といった具合。今すぐにでも利用できるサービスでは、おもちゃのロボットや、チョコレートの3D印刷などがあります。これらを好みのままにカスタマイズして、注文ができるサービスが、すでに実用化されているのです。Robotnation.comというサイトでは、オンラインでデザインし、3Dプリンターで〝印刷〞すれば、立体的なおもちゃのロボットを手に入れることができます。この新しい技術は、立体を削ったり切ったりする従来のやり方と反対に、材料を添加しながら立体を作るので、Additive Manufacturing(AM:添加製造技術)とも呼ばれます。

 チョコレートも3Dで

イギリスのエセックス大学は、チョコレート用の3Dプリンターを開発しました。インクジェットプリンターのようにチョコレートの層を重ねて、独自デザインのチョコレートを製造します。平面の紙を積み重ねて立体を作る要領で、さまざまなな形のチョコが作れます。コンピューター上で思いのままのデザインを作り、形にします。  

3D印刷は、デジタルデザインを元に、原料の層を重ね3次元の形を作っていきます。レーザーを使って材質を溶かすような方法から、材質にスプレーをかけるインクジェットのようなものまであります。どれも、コンピューター上でデザインされたものが実際に形となります。  

モノの塊を切ったり削ったりする従来の生産方法では、内部に幾何学的な構造を作るのが困難でした。金型を使う方法では、温度管理によって、成型品の品質に問題が発生することがあります。添加製造なら、完全に個別生産で、内部が複雑でも湾曲していても、形にできるという利点があります。  

ベルギーの「レイヤーワイズ(Layerwise)」社に、3D印刷の良さがわかる例があります。この会社では、オランダの老婦人が、人口の顎を移植しなければならなかったとき、3D印刷でチタン製の顎を作成しました。

大量生産から個別生産へ

イギリスの「3T RPD」社では、ドリルで切削するのではなく、3Dプリンターを使ってレーシングカー用のギアボックスを製造し、箱の中でスムーズに油圧が流れるようにしました。社長のアイアンハリデー氏によると、ギアチェンジが早くなり、30%の軽量化にもつながったそうです※。  

ボーイングF18戦闘機にも、エアーダクトなど、同じ理由により、添加製造技術で作られた、多くの部品が入っています。  

アメリカ「モーリステクノロジーズ(Morris technologies)」社(※)は、最新鋭の3D印刷でプラスティック射出成型金型を作りました。原料も減らし、中に通り道を作ることで温度をうまく下げ製造サイクルを短縮化。かなりの費用削減になったそうです。  

今、アメリカや日本の製造業は中国やベトナムなどの安価な労働力に押されています。しかし、添加製造技術によって、安い大量生産から、付加価値のある個別生産へ移行するチャンスです。この技術は、初めはプロトタイプを速く作ることが主目的でしたが、技術の発達にともない、よりカスタマイズが必要な用途へとシフトしているようです。

(※)「モーリステクノロジーズ(Morris technologies)」社は2012年に「GEアビエーション」に加入しています

 魔法のような技術…

スケールメリットを出すのは難しいのですが、一つ一つが異なる人工の歯や、矯正部品を数千個生産することができるのは強みです。今、技術革新のスピードはどんどん速くなっています。その中で、顧客の要望を満たすよう、速くデザインを作り、新しいアイテムに合わせて製造ツールもどんどん作り替えることができれば、単価が高いとしても、3D印刷は十分受け入れられるでしょう。  

3D印刷産業の発展で興味深い点は、消費者自身も生産に関わることができ、デジタルデザインのライブラリーが増えてくることです。自分がつくったデザインを、プラスチックなどに印刷(成形)できる小さなプリンターは、すでに数多く発売されています。キュビハイ(Cubify)社は、3Dプリンターのセットを1299ドルで発売しています。無線接続で、プラスチックに多色刷りで印刷可能。サイズは、縦横奥行きそれぞれ、5.5インチ( 13・97センチ)のサイズまで。クラウドベースのサービスもあり、そこにアップロードしたデザインをプリントできます。

シェイプウェイズ(Shapeways.com)社では、4種類の材質を使って印刷ができます。シンギバース(Thingiverse)社、デジタルデータのライブラリーを運営しています。圧倒されるほど多くのデザインから、しゃれた宝石や、高級乳母車の取り換え部品まで見つけて制作できます。

まだ発展途上ではありますが、3D印刷は期待の技術です。企業が海外の安いコストに対抗するには、迅速なデザイン変更やカスタマイズができることが重要でしょう。また、デザイナーやアーティストが、資金がなくとも、新しいものを創造し組み立てる良いプラットフォームとなります。本拠地から離れて仕事をするとき(海外に行くアメリカ陸軍もその一つ)部品や工具がないという、ボトルネックの解消にもなります。本当に魔法のようです。  

単純な話、どんなレプリカでもすぐにできるなんて、かっこいいと思いませんか。  

※雑誌「エコノミスト」より  

この記事への感想や疑問、今後興味のあることなどがありましたら、ぜひお知らせください。  

*この記事は、株式会社TKCが発行する雑誌「戦略経営者」2012年7月号の経営スクランブル(戦経セミナー)に掲載されています。

オリバー・C・チャブ
アイ・モバイル株式会社 取締役
 

アメリカニューヨーク州生まれ。スタンフォード大学MBA取得。
日商岩井で東京都都市開発プロジェクトを行い、日本の環境庁で政策提案を行うなど、日本で幅広い経験を持つ。
数々の会社を立ち上げ、アメリカのパートナーにアドバイスを提供する。サンフランシスコ在住。

last update:7月5日

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